外交の教科書(1)―世界を知りたければ、中山治一!

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 ヴァンダレイ・シウバという格闘家がいる。見るからに凶暴そうな顔をしている。その彼が何かのインタビューで「俺は学歴はないが、本を読み、世界で何が起きているかを知ろうとしている。」と答えていたのが印象的だった。古すぎて出典がどこだかわからないが。

 国際常識として、学問とは「世界を知ること」なのである。日本の大学生、どころか学者でもこれをどれだけ知っているだろうか。歴史や文学のような人文科学であれ、政治や法律のような社会科学であれ、数学や医学のような自然科学であれ、世界を知るための方法論なのである。ただ、自分がやっている分野の技術や知識だけを覚えても、それは学問ではないのである。

 本題に入る前に、かつて絶句させられた質問。私が「日本史だけ見ているとわかりにくいが、普通の国では、その国で一番優秀な人間を外交官にする」と気軽に発言した瞬間、「資料出してください!」と。あ、あのう、常識ですが。仕方がないのでハロルド・ニコルソンを紹介してあげたら「一次資料じゃないじゃないですか!」と。そ、そこから説明しなければいけないのかぁ。マキャベリ時代のイタリア半島の歴史から説き起こしてあげたが、この砦の読者の皆さんは、せめてウェストファリア体制で勘弁してください。

 さて、「世界を知る」とは、まずは世界のニュースに興味を持つことからです。日本の新聞は国際面が薄いので有名です。外字新聞と比べてください。国際情報誌も少ないですし。ネット時代に負けて『世界週報』が廃刊したのは残念だけど、あの雑誌も末期は明らかに質が落ちていたから何とも。ネットにあがっていない古い事件を調べるには最適です。

 古いこと、というと怪訝な顔をされてしまう今日この頃ですが、歴史を知らないと今何が起きているかわからないのは自明でしょう。(というか自明であって欲しい。)

 そこで、まず世界史の簡単な概説書から。

 講談社の『新書西洋史』全八巻をお勧めします。ローマ以外の七巻は名著揃いです。一巻の分量は高校教科書より薄いので、興味のある時代から一度読んでみるのも御一興。国際人として社会の第一線で活躍したい人は通しでどうぞ。途中に一巻だけある苦行も、学者や外交官への修行です(笑)。

 さて、その中でも、現代国際社会はどのように始まったのか、を理解するために以下。

 中山治一『新書西洋史(7) 帝国主義の展開』(講談社、一九七三年)

  手にいれやすさ ★★★

  わかりやすさ  ★★★★★

  読みごたえ   ★★★★

 どんな言葉や理念や情報が飛び交おうが、結局は近現代国際政治の主体は国家であって、大国が誰を敵と味方と判断するかによって動く、ということがわかりやすく説明されています。おそろしく単純化すると、ビスマルクはすごい、ウィルヘルム二世はダメということです。明治時代の日本史もこの二人を無視して語れるはずがないですし。世の中が動くには論理があります。

 私、大学院生の時に、中山さんの本はたぶん全部読みました。この方、日本史の論文も書いています。何より、かの総力戦研究所の研究員だったのですね。総力戦研究所、優秀な西洋史の研究者が参集しており、戦後の史学を支えたのです。

 古本屋にも安い値段で大量に出回っています。五つ星で評価していこうと思います。ちなみに読みごたえの四つ星は、入門書だから星ひとつ減です。でも深いですよ。