どうも玉山鉄二です。(いきなり大嘘)
「アルマ」ちゃんの玉鉄さん、カッコウ良かったですねえ。今年のことは今年の内に。というか、記憶が薄れないうちに。
その前に昨日、「統一地方選挙・全国共通公約」を書いたら、本当にお問い合わせがありました。神奈川県相模原市の中村武人君と和歌山市の南竜也君です。どちらも大学のサークルの後輩です。
中村君はさすがに目の付け所が良く、
「景気回復(=金融政策)に地方で出来ることは何ですか」との質問でしたので、
「増税反対。今、増税すると地方経済を殺すことになる。経済学の常識に反する」とは言えるし、言うべきでは?と答えておきました。
「景気回復」と「外国人参政権反対」はよく言われていますけど、「犬猫殺処分をゼロにできる」は、どうやら驚愕の内容だったようです。熊本でやって成果が出ているのだから、日本中どこででもできるということで、知ってやる気を出すかどうかだけです。
今のところ、東京以外での活動は考えてなかったのですが、早速連絡があってびっくり。
愛玩動物は家畜ではなく、家族です。大事にしましょう。
さて、どういうきっかけで私がアルマちゃんに関わるようになったかというと、あれは、年明けに続編が発売される
『総図解 よくわかる日本の近現代史』(新人物往来社、税込1470円)
が、出版を待つだけとなっていた七月のことでした。
お世話になっている編集者から一本の電話。
「倉山さんって、満洲の専門家でしたよね?」
「は、はい。(何となく嫌な予感)」
「倉山さんって、犬は好きでしたよねえ?」
「は、はあ。まあ、昔、飼っていましたが。。。(???)」
「満洲の犬の話でお願いしたいことがあります。会社に来てください」
と呼ばれてノコノコ
百瀬孝『事典 昭和戦前期の日本』(吉川弘文館、一九九〇年)・・・とても軽くて便利。
秦郁彦『日本陸海軍総合事典』(東京大学出版会、二〇〇五年)・・・とにかく、お、重い。
&その他、満洲関係の地図やら写真やらを持って出かけると、
NHKのプロデューサーの内藤さんとディレクターの一木さん&シナリオライターの藤井さんが。
人からは「2時間くらい打ち合わせをしたのですか?」とか聞かれるのですが、とんでもない。6時からはじまって、4時間くらい?(その後、36時間⇒24時間⇒12時間・・・と、調査&回答にかかる時間は短縮できましたが)
なぜかと言うと、私が即答できない質問ばかりで。。。(これほど即答できないのは日本近代史に関してははじめて)自分の名誉のために言っておきますと、某研究所の専門家に同じ質問をぶつけてみるとことごとく沈黙。で、こちらが「これで良いですよね」に、すべて「ハ、ハイ」でした。
だって、シナリオそのものも読んでいない状況で質問が三十項目くらいあって、
「昭和十八年の獣医学生の生活環境は?」
「国分寺市民の交通状況は?」
「満鉄は軍犬を扱っていましたか?」
「赤峰の写真はありますか?」
とかも関連質問で加わるので、いい加減な答えをする訳にもいかず、ということです。
さらに、
「軍服と国民服の見分け方」・・・軍人と民間人の違いです。国際法の資格の話とか余計な話はしませんでした。
「駐屯地と基地の違い」…動くことを前提としているか、動かないことを前提としているか。
「関東軍と万里の長城以南の方面軍は別世界」…満洲でソ連を警戒しているか、支那事変をやっているか。
「満洲国内に『私は中国人です』などという中華ナショナリズム爆発の漢人などまずいない」
とか、理解していないと作品世界が一気に壊れてしまうディテールもあるので、意外に忘れられがちな基礎知識も、軍オタ的にならないように説明。
で、原作がまったく細かいことを書いていないので、映像にする際はリアルな設定が必要になります。
と言っても、事実をそのまま羅列してもそれでは作品にならないのですね。
事実を基にしたフィクションではあるのですが、モデルの一人は
「満洲の草原で犬を走らせたかったんですよねぇ」って、ド・ドキュ・・・???
ということで、「提供」する「資料」の中身は、ほぼすべて自力に・・・。泣
ちなみに、一匹の愛犬を探すために満洲に渡るか?
私なら躊躇うことなく渡りますが、やっぱりそれをそのまま描いたらまずいでしょう。
だから主人公は、やたらと軍(用)犬の雑誌を眺めていたので何とか手がかりをつかめましたし、どうにか満鉄の募集に応じて、一年間どうして良いかわからなかったら偶然、出会えた、という話になる訳です。もちろん「犬のために満洲に来た」は劇中でも変人扱いです。
「そうだ、隣組を通じて地元選出の大政翼賛会の議員さんに掛け合ってみよう!たまたま国策企業の満鉄で応募がある。どうせ人手が足りないから雑誌の記事を手がかりに希望地を出せば
すぐに会えるぞ!」みたいな、悪知恵が働くロビイストみたいな学生を主人公にしたら、それだけで嘘くさいですから。
作品上の「リアル」は「本当らしい」であって、「本当であっても嘘くさい」では駄目なので難しいのです。
打ち合わせ後に御馳走になりながら、内藤さんと藤井さんが徳島出身と知ってびっくり。しかも私が転校しなければ、藤井さんとは同じ中学になっていた、などという奇縁も。
この時に、やたらと芸能界事情に詳しい(何でだろう)と感心されたのはともかく、「その昔、脚本家を目指していまして、橋田壽賀子さんの『いのち』と金城哲夫先生のシナリオ集を熟読して勉強したものです。」などといらんことを言ってしまい、後で大変なことに。。。
さてさて、本題。
元のシナリオでも「昔は嫌な時代だった」「戦争はよくない」「犬が可愛そう」という「ありきたりの戦争ドラマ」にはしないという意欲は感じました。
登場人物全員に詳細な設定があります。「中国人通訳のワン」だけでも大河ドラマだと一話分作るよなあ、級の。ちなみに彼がモンゴル語をしゃべれるというのが主人公が無事に日本に帰れるという伏線だったのですが、どうやら誰も気付かなかったようです(そんなの気付くはずが無いところにまで配慮しまくりでした)。
考証がひどいのになると、
特高警察の皆さんが陸軍憲兵でも持っていないような機関銃を片手に民家に押しいる、
ロンゲのキムタクや肥満体の松村邦洋が特攻隊員をしている、
ついでにそのキムタクは「我が家は親子三代陸軍大将だ!」と上官に楯突く(二代が限界です)、
さらについでに時局を反映して何の必然性もなく「イアンフ」が出てくる、
とかいう阿鼻叫喚地獄絵図な作品が出来上がったりするのですが、そういうのはやめましょうというのが出発点です。
従来の戦争映画で違和感があるのは、昭和の日本とは別のほぼパラレルワールドと化していることですね。
「これ、どちらかと言えば同時期のナチスドイツとか、むしろソ連に近くね?」という、登場人物を無機質に描く作品ばかりで。
肝心なことは、戦前の日本は結局はファシズムでは無かったということです。
ただ無能な官僚統制のあげくに国民が大迷惑をしたというだけで、秘密警察による恐怖支配で人間性を喪失してしまったドイツやソ連とはまったく違う訳です。
例えば、アルマを強制的に連れて行こうとするシーンででも、ドイツを舞台にしていたら無慈悲に鞭で殴り続けるというシーンもありなのですが、日本人だったら「それくらいにしてくださいよ」とならないとおかしい訳です。
「軍部は戦争を次々と拡大していった」というのが大多数の日本人の持つ昭和史イメージなのでしょうが、では昭和十四年のノモンハン事件から、昭和二十年八月にソ連が侵攻して来るまで、関東軍が何を考え、何をしていたかって、日本近代史家でも実はなかなか言えないです。
まず何をしていたか。ヒマしてました、は言いすぎなら、ソ連に備えていました。
で、南方にどんどん戦力を引き抜かれ、張子の虎と化していって・・・まあ不安でしょうがないですね。
梅津大将が司令官(在任中に総司令官に格上げ)は予算と物資をとってくるのがメチャクチャ上手かったから良かったものの・・・という今の霞ヶ関の論理とまったく同じ考え方をしている人たちです。
で、関東軍って何なのですかに関する私の答え。
他社の作品で恐縮ですが・・・
巨大な湾岸署です!
私の受け持つ学生には警察官志望者が多いので必ず「これくらいは観ておきなさい」と勧めるのが「踊る!大捜査線」です(本当の官僚の世界は、あの“警察全面協力”の作品どころではないですが、ま、入り口として。別に嘘をついているのではなく、穏便な話にしているということです)。
テレビシリーズで大事なことは、前半の5〜6話くらいはキャリア官僚制の不条理に主人公が悩むけど、後半になると「ノンキャリの知恵を使って裏をかいてやりたいことをやっていく」という話だということですね。
日本陸軍って何物だったの?という話をしだすと終わらないので、私がいい加減なことを言ってないということで参考文献として、
鈴木敏夫『関東軍特殊部隊』(光人社、一九八八年)
をどうぞ。
この本でも「アルマ」でも、“青島刑事”やら“ギバちゃん”やら“チョーさん”やらが出てきます。
仕事が巨大なルーティンと化してしまって部下のことなど構っていられない、ましてや犬などという状況は、犬に愛着のある部下にとってはどうにもたまらない状況ですよね。
別に当時の関東軍だけが異常だった訳ではないですし、この辺り現代と近いのかなという演出でしたね。
NHK史上初、というか日本映像史上初は列挙しときます。
その一 甘粕正彦の内面をちゃんと描いた。
どこぞの「ラストエンペラー」は、中国共産党が溥儀に脅迫と洗脳で押し付けた史観そのものです。それに欧米人がまんまと騙されるとああいう映画になります(甘粕に関しては、演じた坂本龍一さんが悪いのではなく、脚本と演出の問題)。
まあ、甘粕をヒトクセどころか七十癖くらいある人物として描くのは溥儀主観からすれば良いのですが、彼は泥をかぶれる苦労人だし、部下とか弱い人にはかなり優しい人たちだったのですね。そういう一面も描かないとこれまた嘘ですし、昭和十八とか十九年に甘粕が何を考えていたかと言うと、居留民保護より大事なものはない訳です。何より、自分が満洲国を作ったつもりでいる以上、ソ連の侵攻など許せるはずがない訳です。
だからああいう台詞になりました。
再放送の際はご確認を。
その二 甘粕と同席した関東軍の軍人さんたち。
最初は梅津美治郎総司令官を出すとか、山田乙三総司令官を「踊る〜」のマヤミキとか裸足で逃げ出すような、「これ演じれるの藤木孝サマしかいないのでは?」みたいな極悪非道シナリオもあったのですが、十転くらいして、甘粕に。
あえて、今は民間人の甘粕(劇中では甘田)に情報と知見を求めに来るくらいですから、関東軍の中でも優秀な人を選ばないとということで、以下の人選になりました。
中村獅童(松原)・・・松村知勝
川野太郎(草野)・・・草地貞吾
角田信朗(石田)・・・池田純久
興味がある人は、松村知勝・草地貞吾・池田純久とか調べてください。昭和史の重要人物です。って、普通の人が関東軍の人事録見ても抽出できる訳無いですね。
その三 甘粕の極秘情報。
甘粕が劇中で取り出す、佐藤尚武駐ソ大使の極秘公電は、満洲国大使も兼ねる関東軍総司令官には渡らない様式です。実際の外交官達も、関東軍の軍人に情報を流さないようにあの手この手の知恵を使っています。
例えば、「半公信」という様式にすれば外務省出身の公使には渡るのですが、関東軍総司令官兼満洲国大使には知らせずに情報のやり取りが出来ます。
てな感じで、関東軍の中枢にいる人たちこそ、情報過疎地帯にいたのです。
ただ、本当のところ、甘粕がどこで何をしていたかというのは、一次史料はほとんどないのですが。
その四 佐藤大使は御存知だ!
佐藤大使の情報とは、「ソ連なんか信用できるわけ無いでしょうが!」というものです。
昭和十九年になると普通の人が読んでもわかる表現になりますが、それ以前から外交官ならわかる表現で書いています。
佐藤尚武という方、新渡戸稲造ではなくこちらをお札にした方が、という偉大な外交官です。
昭和十八年にソ連の裏切りを予見するなど超能力者に思う方もいたと思いますが、別に昭和十二年でも大正十五年でも結構です。ソ連の約束破りなど、国際常識ですから。
問題は、そんな常識を東京の外務省がわかっていなかった悲劇で。。。(これは、今の方がはるかにひどい。)
その五 満ソ国境付近のゲリラ
パルチザンにしたかったのですが、それでは用語の説明がいるだろうということで。
「ゲリラ」は今の「テロリスト」の意味で使っているので良いかな、ということです。
まあ、金日成の偽者の金一星(実在)とでも思って下さい。笑
さすがにその名前にすると別のドラマになってたでしょうね。爆
でも銃と青竜刀が同居しているとか、民間人だと思ったらだまし討ちとか、やたらリアルだなあ。。。細部は実際の映像を見て初めて、なので感心しました。
残念ながら、当該期の満洲にクルスク大会戦とか大陸打通作戦みたいな大作戦はありません。
地味な諜報に付随する戦闘が本領です。
その六 根本将軍は無敵の名将だ!、とその前に。
玉山さん演じる有川大尉は、ソ連を刺激しないように国境付近のゲリラを見つけ出して、場合によっては自らの犠牲を顧みずにおびき出すという任務を帯びている訳です。とは言うものの、物資はロクに無く(昭和二十年などは“木銃”)。
で、キャリアで宣撫工作とかやらされている(だから長髪でなくてはならない)有川大尉は、
自分の好きな人材を各部隊の担当者がイイという限りにおいて、集める権限くらいは与えられている訳です。まあ、「第三班」は「お前達は特殊部隊だ」と持ち上げられながら体よくオトリに使われている訳です。
派遣社員を役職付きにして持ち上げながら給料は変わらず責任だけついてくるので多少の我侭は聞いてあげましょう、みたいな話ですか。(違うか?)
だから、色んな意味で「エリート部隊」になっていないのですね。
「よくある軍隊イジメ」的なシーンは全部、見事なまでの後半への伏線になっていましたね。
その七 根本将軍は無敵の名将だ!
最後、有川大尉は戦場に孤立している主人公の太一たちを助けに行きます。
副官の工藤(蟹江一平さん)、格好良いなあ。最後、足手纏いになって手榴弾で自決するシーンとともに見せ場ですね。
軍事的には「助けてらんない!」なのですが、有川としては「全員、自分が集めた部下だ!」と助けに行く訳です。
ここでアルマがせっかく来たんだからととんでもない長距離を遠征すれば途端におかしくなるので、「双眼鏡目視確認できる距離」が「救援に行く決心をする」ギリギリの距離になる訳です。「絶対助からない」ではなく、「行けば助かる可能性がある」という設定です。
結局、予想外にこの方面のソ連軍の重火器の威力が激しく有川隊ごと孤立してしまうのですが、これが太一君にとっては不幸中の幸いで、彼らは赤峰にいたので、東の奉天に猛進するソ連軍本体を背に、西に落ち延びていくのです。
それで、敵の治安部隊を避けながら逃げていくのですが、それでも戦力差は圧倒的で次々と仲間は倒れる羽目に。ちなみにソ連兵の銃器はバラライカ。ちなみに「ロスケ」と呼ばれてましたねえ。一人もソ連兵が出てこないことで「見えない敵に追われる」という戦場の恐怖を描いていました。
一方、こちらの有川さんに到っては、将校用の拳銃。。。
で、地元の人たちから情報を得た通訳の王が「根本博将軍が張家口でソ連軍を食い止めています!」いう情報を得られて、何とか太一君だけ合流できた訳です。
劇中では、根本将軍の名前を聞いただけで生き残ったみんなで歓喜するシーンがありますが、
この根本博という方、ほとんど冗談みたいな強さの将軍です。
というのは、
全滅する関東軍を尻目に一人だけソ連軍を撃退し、居留民を全員救出した!
という、伝説の将軍です。(本当に映像化するなら演じるは阿部寛さんしかいない!)
よくいう「中国残留孤児」というのは嘘で、あれはソ連と毛沢東にひどい目にあわされた「満洲残留孤児」です。万里の長城の南にいた人は岡村寧次大将(敗軍の将なのに、蒋介石に言いつけて居留民を日本に送り返させた)のおかげで助かっています。
根本さんが助けたのは、モンゴル方面にいた人たちです。
この時に生き残った人に話を聞いたことがあるのですが、
「満洲にいた人には悪いけど、根本さんや岡村さんは関東軍みたいなヘタレではなかったのよ!」でした。。。
一応、関東軍、装備さえちゃんとあれば「無敵」だったのですが。。。
民放のフジで特集やっていたのですが、かのNHKで根本将軍の偉大さを称える快挙となりました。でも知名度低いのかなあ。
ちなみに「張家口 奇跡の大撤退戦!」は、やったらこれまた別の話になってしまったでしょうね。
細かいこと言い出したら切りないのですが、例えば、「なぜ仲里依紗演じる小学校(国民学校)の先生が昭和十八年まではこれでもかと清楚な白いブラウスなのに翌年になるとモンペになるのか」とか、「一回お見合いしただけでお互いに結婚したことになって旦那が戦死したら奥さんの方は一生独身でした」は今の人には信じられなくてもよくある話でしたとか、最後の有川の台詞の「任務」は昭和の日本人のとっては特別な意味の言葉です、とか言い出したらきりがないのですが、まあこれくらいで。
再放送というより、連続ドラマ化してほしいなあ。80分ではもったいない。
ちなみに私のクレジット、大河ドラマの殺陣師を四十年くらいされておられる林邦史郎先生と並んででした。
田舎の両親も喜んでおりました。
それでは良いお年を。