幕末維新の留学生

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 明治維新は世界史の奇跡。その通りだと思うが、だからと言って、外見だけ猿真似しても成功はしない。外国人であろうと、現代の我々であろうと。

 実は手放しで褒めてはいけないと思っているのが、留学生達である。何せ、この人たちの少なからずが帰国して東大教授になったのだから。しかし、それでもこの人たちの手放しで褒めてよいことについて述べたい。

 日本人は、「幕末以来、西洋の文化を学ぶために留学生を派遣した。帰国した留学生達は、学んだ知識や技術を日本の近代化に役立てた」との文をさらりと読んでしまう。
 しかし、これは世界的に見れば、奇跡なのである。

 何が奇跡か。彼らがほぼ全員帰国しているのである。別に、留学先に残る道はあったし、ホームシックにかかった訳ではない。当時の人種差別を言うなら、インド貴族だって英国本国での立身出世を夢見ていたほどである。昔の日本人留学生は、自分の使命は「祖国の役に立つこと」と自覚していたのである。

 しかも、当時の日本政府は自腹で留学生を送り出しているのである。特に国名を伏すが、「何とかスタン」の政府高官が揃って日本の明治維新を学びに来たのだが、彼らその費用を日本に出させようとしたのである。(本当に出したかどうかは知らない)
 日本人の感覚だと、自腹を切るのが当たり前だが、国際的にはそうではないのである。

 独裁国ならば、まず留学生の家族を人質にする。その為、留学生活を家族抜きで過ごすので、
精神的に不安定になってしまう留学生があとを立たない。

 イランのパーレビ国王が明治維新の真似をして欧米に留学生を送ったら、留学先の方が儲かるので、というか儲からなくても帰るのがイヤになって、ほとんど帰国しなかったので莫大な国費が無駄になった。それどころか、性急な近代化路線への反対派の攻撃材料となり、ついには革命に至ってしまった。これだけで明治維新の大前提が愛国心だとわかる。

 

 まったくの余談だが、このイラン革命でイスラム原理主義の立場から決起を呼びかけたホメイニさんは、SONYのカセットテープにコーランを肉声で吹き込んで、国中にばらまいた。イランは王党派も革命派も親日である。
 現大統領のアフマディメジャドがアホだのバカだのという声をよく聞くのだが、残念ながら我が国が言えた義理ではあるまい。日本の話を聴く耳は持っている。
 アメリカ国内にも「イランを叩け」などと寝呆けた勢力が存在して、実際に現地はいつイスラエルが仕掛けるかと緊張しているのだが、イラクと違い、こんどこそ日本がアメリカを止めないと身の破滅である。政府には期待していないが。
 イランは大事な国である。

 

 日本では人材の空洞化と言われて久しい。優秀な研究者ほど海外に流出して戻ってこない、ということである。
 しかし、圧倒的多数の日本人は祖国を捨てることができないのである。この国でしか生きられないのである。

 自国や他国の失敗から学び、現在の危機を認識し、自分が何をなすべきかを考える。
 年齢に関わらず、「青年」の使命ではないだろうか。

 日本史の研究をしていた時に読んだ、サムエル・ジョバンナ元ジンバブエ国立文書館長の「いつも大金をはたいて海外留学に送り出すだけが研修ではない。自国の歴史や文化に根ざした活動の方が大事なのでは」との言葉を思い出す。

 伊藤博文や井上毅が『日本書紀』にたどりついたように、結局は自分が何物なのか、自分の頭で考えるしかないのだと思う。その方法論が国内に残るのであれ、海外に行くのであれ。

 日本人自らの御一新というか洗濯というか、求められている。しかし時間がない。