尖閣衝突ビデオ流出騒動への所感

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 誰も見ていないのでは?と大評判の「最新情報」コーナーに噂の尖閣沖漁船衝突ビデオの流出映像をアップしておきました。

 この問題に関しては、
一、日本政府の当事者能力が疑われる。流出の責任を明確にすべき
二、そもそもビデオを公開しなかったのがおかしい。もし意図的流出なら、やった人は英雄だ
との二つの立場に分かれているようです。
 それに関する私の見解は以下です。

 いきなり結論の前に、まずは中国人にとって忌まわしい記憶しか残らない歴史の話から。

 昭和初期(民国暦十年代後半)、現在は中国東北部となっている満洲の地では紛争が絶えませんでした。現地を支配するのは匪賊(つまり巨大暴力団)の張学良(満洲人でも何でもなく、漢民族の流民の三代目)。中央政府の蒋介石の命令など面従腹背だし、ソ連の在外公館にも乱入するなどの無法者でした。
 当然、日本にもやりたい放題。特に、法的には日本人になっている朝鮮人を狙い撃ち。
 現地の治安維持を司る日本陸軍(関東軍と言いました)は怒り心頭。
 ところが外務省は「抗議なんかしたら日中友好を損なう!」と、自国民の人権侵害に知らん顔。というか、仕事がしたくなかった。より正確に言うと、現地の外交官の大半はまじめに事態を売れ居ていましたが、東京の本省と赴任してきたエリートがそういう態度でした。
 戦後になっても石射猪太郎などは「朝鮮人相手の仕事をするなど、外交官として落ちぶれたものだ」と回顧録に記す始末。(死後出版の文庫版では、その部分を削除)

 こういう有様なので、関東軍は
「もう合法的な手続きなんか待っていたら問題は解決しない。手段を選ばずやってしまえ」
と東京の民政党政府がまったく意図しない武力行使を断行しました。
 その際の大義名分が「支那人が〔線路爆破などの〕挑発行為をしてきた。自衛のために討伐する」で、なし崩し的に行動範囲を広めていきました。
 これを「自作自演」とか「関東軍の独走」とか「クーデター」と言われます。

 この行動に世論は拍手喝采!少数野党の政友会の大半も拍手喝采!
 特に、陸軍が「あいつらリベラルだから呼びつけて圧力をかけてやろう」と思ったのが朝日新聞。
参謀次長の呼び出しに課長をよこしたあげく
「任せてください!」と。圧力、いらないじゃん。。。

 時の影の薄い総理大臣(若槻だよ。菅じゃないよ)が「不拡大方針」を言うたびに、関東軍は軍事行動を拡大。
 英仏ソなどの列強は
「日本は政府が不拡大方針を唱えながら、着々と既成事実を積み重ね占領地を拡大している。何と上手いやり方だ」
と内心では感心することしきり。
 実態は、政府内部の軟弱派の反動で強硬派が脱法行為をし、時の政権が右往左往していただけでした。
 かくして、事変を実行した関東軍の軍人さんたちは英雄になりました。
 そして「何でも良いからやれば許される」とばかりにみんなが動くので、国策は崩壊。
 その末路は十三年後の敗戦でした。

 これがなぜ中国人にとって忌まわしい思い出なのか?
 一つは、軍事的に完敗だったからです。この事実は痛いです。

 もう一つ、彼ら的な教訓です。
 漢民族は、「相手が本気で怒るまでとりあえず無茶苦茶な要求をしてみる」のが習性です。
 その彼らにとって、白人特にアメリカ人は良くも悪くも付き合いやすいのです。
「嫌なものはイヤ!」って、空気とかまったく読まずに主張するので、引き際がわかりやすいので。
 ところが、日本人は嫌なことがあっても何も言わずに我慢して、「まだこれくらいなら大丈夫だろ」と思っていたら「いきなり包丁でブスリ」みたいなことをやるので、彼ら的に一番付き合いにくい国民なのですね。
 まさに上の満洲事変なぞ、その典型です。

 前置きが長くなりましたので、本文の方を短く。
 さっきテレビ朝日の「報道ステーション」を見ていたら、「リベラル教の伝道師」みたいに思われている古館伊知郎さんが「民主党軟弱外交」を絶叫的に糾弾していました。
 で、尖閣沖での中国漁船による我が海上保安庁の巡視船に体当たりに際し証拠ビデオがあるにも関わらず、内閣は軟弱外交に終始。
 そこで何者かによる同証拠ビデオのインターネット流出事件が発生。
 普通に考えたら、政府内部の誰かによる不法行為による流出です。
 野党自民党などは「勇気ある行為」と拍手喝采。

 何か似ていないでしょうか?というか、同じですね。

 今回の件に関しては、一連の「軟弱外交」に関しては、
 結論の決められる手続にも、決められた結論の内容にも反対です。
 もし政府内部の誰かによる意図的な流出ならば、公益通報にあたると思います。
 ただし、もしそういう方が居るのなら、その方は辞表を提出すべきだと思います。

 満洲事変そのものはやることに理があったとしても、誰も上司(その頂点は選挙で民主的に選ばれた政府)の意図しないことを脱法的に推進した責任をとりませんでした。
 その結果、事変立案者の石原莞爾などは、後に命令違反をとがめだてられた部下から
「私はあなたと同じことをしているのですけど」と言い返されて顔面蒼白退席したとか。

 あまり仮定の話でモノを言うのは嫌いなのですが、この話は単純に民主か自民か、みたいな話ではないので。
 もし何かの事故で意図的な事件ではなかったとしても、誰かが辞表を出すべき話ではあります。

 ちなみに、断末魔の江戸幕府もこんな感じでしたけど。