悪口の話(応用編)

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 戸川猪佐武『小説吉田学校』という必読の悪書があります。
 戦後政治史の通説が書いてあります。
 はっきり言いますが、学界の戦後史家のほとんどは、これをなぞっているだけ、という影響力のある書です。今の政治を知りたければ、さいとうたかを版の劇画でも良いので、一読をお勧めします。いきなりそれだけ読んでも本当のことなどわからないけど、ここからはじめなければわからない本ではあるので。
 三木武吉を美化しまくったのはともかく、かなり嘘が多いのですね。著者本人も本当のことを書く気が最初からなかったような感じですが。戸川さん、「田中角栄の宣伝隊長」というあだ名でしたので。

 同書の裏主役が実は三木武夫。同書の舞台となってている吉田茂〜大平正芳の時代で一貫して重要人物であり続けた唯一の人物です。角栄の金権政治と対照的に、「清廉で高潔でしかし融通が利かない政治家」という描かれ方をされます。

 そのクライマックスが、昭和47年の角福戦争。
 田中角栄と福田赳夫が激しく争い、結果的に角栄が三木と中曽根康弘の両方を味方につけたから勝ったという話です。
 角栄氏、一説によると100億円使ったとか、中曽根派を7億円で買収したとか。
 当時からそういう噂は流れていました。

 自民党総務会にて。
 三木派の総務二人が、中曽根氏の裏金疑惑を追及し、大喧嘩になったとか。
 その総務の二人、喜び勇んで三木事務所に報告。
と ころが褒めてくれるかと思いきや、三木氏激怒。
「あーぁ、君たちは何ということをしてくれたのかね。政治家はこの種の人身攻撃をしてはいけないんだよ。政治家は政策で争うものであって、自分だけクリーンであれば他人なんかどうでもいいじゃないか」と。
 あまりの剣幕にこの二人、三木派を離脱してしまうほどの落ち込みようだったとか。

 ここまでは通説です。
 三木氏の側近で「親衛隊長」を自認していた久保紘之氏によるとこの続きがあるとか。

 三木氏の怒りには、
「もしかしたら中曽根君とは味方になる可能性があるのに、ここで後に引けない悪口を言ってどうするんだ」との意味もあったとか。
 これに納得したのか件の二人、
「では、今から戻って訂正してきます!」と。

 これに三木氏、さらに嘆息して曰く、
「あーぁ、君たちは、本当に政治と言うものをわかっていないねえ〜!」と。

 二人、「?????」

 三木氏、三白眼を剥いて曰く、

「もっと悪口を徹底的に言って、火を大きくしてこい!」

 応用編というより、上級編でした。