大蔵対日銀百年戦争史(1)―統帥権の独立と中央銀行の独立

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 誰も見ていないかと思いきや意外と見ているらしい最新情報。
『関東軍全史』のことアップしておきました。

 13日の上念塾のチケット、既に完売だそうで、すみません。&ありがとうございます。
 当日駆けつけてくれれば、立ち見があるかもしれません。(終わった後の飲み会から?)

 あと、AJERのアップで不具合がありご迷惑をおかけしております(ペコリ)。

法制局を蹴散らした日銀の栄華
http://www.nicovideo.jp/watch/sm17475688
http://www.nicovideo.jp/watch/sm17472764

 それにしても、我ながらすごいタイトルだ。笑
 その2
の方で「統帥権の独立を超える中央銀行の独立」について言及しているのですが、今の日銀、戦前の統帥権どころではないのです。

 まず「明治憲法の怪物」「大日本帝国を滅ぼした諸悪の根源」とか、悪の代名詞のように語られる「統帥権の独立」ですが、意外と中身は吟味されていません。

 素朴な疑問。統帥権、誰が持っていたの?
 「軍部」と言っても、陸軍と海軍は外国以上に敵同士です。
 比較的統制が取れていたといわれる海軍だって、海軍省と軍令部はセクショナリズムで時々対立します。
 陸軍に至っては、陸軍省と参謀本部は常にいがみあい、教育総監部まで「統帥嫌の独立」とか言い出します。
 これでは何のことやら訳がわからん。

 そこで統帥権を万国共通の用語に言い換えると、「軍事最高指揮権」のことです。
 ではそれって何のこと?となると、普通は「作戦指揮権」になります。
 帝国陸海軍だと、陸軍参謀本部や海軍軍令部、あるいはそれらの出先の現場の権限です。
 相手が文官政府の場合もあるし、陸軍省や海軍省の場合もあるのです。
 また、東京の参謀本部や軍令部に対して出先の現場が主張することもあります。

 当たり前の話ですが、軍隊には機密性と緊急性がつきものです。
 もちろん平時の規律は絶対ですが、有事にはイチイチ上司に問い合わせてなんかいられないことも多いし、何でもかんでも情報公開するわけにはいかない訳です。
「敵が弾を撃ってきましたが、撃ち返してよいですか。我が部隊が全滅しそうなので早く許可を」とか、
「我が××師団は××地点を移動中です。情報公開の観点から新聞で報じてください」とか、そんなバカなことをする訳にはいきません。(前者は自衛隊はやっていますが)

 言うまでもなく統帥権は乱用すると上司の言うことを聞かない理由付けにされるので、運用が難しいのですが。だから「政軍関係」などという、政治と軍事の関係、政府と軍隊の関係を研究する学問もあるくらいです。

 金融も同じです。
 巨額の金をキッタハッタする世界です。しかも、中央銀行ともなれば国民の生活全体を守る役割を担っているのです。瞬時の判断で国際金融戦争を勝ち抜かねばならないのです。
 現場がイチイチ、上司や政府のお伺いを立てていられなどしない世界なのです。
 もちろん、事前に決め事はあり、それを逸脱することは許されませんが。

 さて、お気づきになりましたでしょうか。
 統帥権の独立と“本来の”中央銀行の独立が同じものであることに。
「規律」」「事前に決められたこと」を無視してわがまま放題やってよいなどという無法の論理ではないのです。

“本来の”中央銀行の独立をもう少し詳しく説明すると、「目的は政府が決めるが、手段は中央銀行の裁量である」です。
 繰り返しますが、現場のキッタハッタにまで政府が口出しはしないが、結果を出すための手段は任せる代わりに、目的を逸脱するなよ、という意味です。

 これを破れば軍隊の場合はどうなるでしょうか。
 死刑です。
 戦前日本の場合だと、「陛下の軍隊を(事前に決められた規律を破って)勝手に動かした」
は最大の重罪です。
 規律はもちろん、軍内部で決められますが、文官の政府も承知しています。
 有名な満洲事変の場合だと、枢密院で石井菊次郎顧問官から
「朝鮮軍は朝鮮を守るから朝鮮軍だろうが!勝手に満洲に移動してよいなんて決まりがどこにあるんだ?見せてみろよ」
などと迫られ、南陸軍大臣は政府の大臣やら憲法学者の清水先生やらに泣きついてオロオロしっぱなしだった訳です。
 結局、「総理大臣裁定」で許されましたが。

 さて、現在の日銀の主張する中央銀行の独立。
 彼ら、事あるごとに「政治の圧力には屈しない」と強調しています。
 日本銀行の何らかの権限の独立ではなく、中央銀行そのものが政府から独立している、とすら主張しています。
 もし関東軍など戦前の軍隊がこんなことを言い出したら
「お前は陛下から独立して幕府を作る気か!?」などとレッテル張りをされたものです。
 それすらも軽く飛び越えている今の日銀。
 何か問題があったら死刑になるどころか、総理大臣の呼び出しにもどこ吹く風。
 しかも裁判官並みの身分保障。
 ついでに、財務省が苦しんでいる財政問題なんて、控えめに言って99%日銀が仕事をサボっている尻拭い。

 日銀人事、緒戦は勝利しましたが、これからですね。(しかし河野龍太郎氏も、生活のための就職活動でブラック企業を回って訳のわからん圧迫面接を何度も受けている学生の気持ちを思い知っただろう。)

 ここで問題なのは財務省の動き。
 今までの勝体制では日銀や民主党政府に追随するとしても、それでは財務省の長期的省益には反するのです。
 偽装右翼の片山さつきはともかく、財務省の幹部がそれをわかっていないと困ります。

 ということで、短期緊急集中連載「大蔵対日銀百年戦争史」のはじまりはじまりぃ〜。
 次回は「大蔵省軍国主義と日銀ファシズム」について。