今回は、日米繊維摩擦前後編の前編である。反米ナショナリズムと大蔵省悪玉扱いは相変わらずである。
ようやく、米ソ冷戦や安保闘争など政治的背景も語られるようになり、「これは一体どこの国の話だ?」という錯覚は少しだけ薄れてきた。また、今回は主人公の風越信吾が「我々は国民に雇われているんだ」などと妙に殊勝な台詞を述べるなど、原作とはやや趣が異なる。ただ風越局長、大臣秘書官に「スパイ」の密命を与え、反対派閥の拠点である繊維局にも腹心の課長を「監視役」として送り込むなど露骨な派閥人事をしていたが、もちろん国家にとって善であると信じきっている。
そんなことより題名が「大臣との対立」だったので、池内大臣こと池田勇人がどんな描き方をされるかと心配したが、結論。
池田勇人は偉い!
さらに、
風越信吾は、戦時中の青年将校と同じである!
昭和二十年の話である。
敗色濃厚の絶望的な状況下、鈴木貫太郎総理大臣は耐え難い苦痛を忍び、敗戦の受け容れを決意した。常に継戦論の急先鋒であった阿南惟幾陸軍大臣も、最終的には反対せず、敗戦責任により自刃した。この時、敗戦の現実を受け容れられない一部の軍人は皇居に乱入し、師団長を惨殺するなどの狼藉を働いている。
今回は、アメリカから繊維業の輸出自主規制の圧力を受け、風越ら国内産業保護派と、同期の玉木(今井善衛がモデル)ら国際通商派の路線対立が描かれる。
担当の玉木繊維局長はかつて風越とともに国内産業育成の立場からGHQと貿易交渉をした人物である。池内大臣も国際的自由化の圧力からまだまだ弱体である国内産業を守りたいが、日米安保条約の改正を控え、緊張する国際情勢の中では、アメリカの要求を呑まざるを得ない日本の弱い立場に歯噛みしている。
結果、池内との玉木は二人だけで(本当は事務次官も含めてのはずだが)、アメリカの要求を理不尽とわかり、しかも国内の中小企業に多大な被害が出ると覚悟した上で、決断する。
要するに、責任者として泥をかぶっているのである。
このあたり、特に池内の描き方は、現実の池田勇人の主張をかなり代弁している。通説だと経済にしか関心が無いアメリカへの追従者かの如く評されることが多いが、実際の池田はかなりの愛国者であり安全保障にも多大な関心を抱いていた。
どうしたTBS? やっとマトモになったか? と思っていたら、この池内と玉木の決断に、主人公の風越は猛烈に噛み付くのである。←ちなみに風越は重工業局長であるが、産業界全体のためには職務権限など無関係らしい。
なんだか、池内が鈴木貫太郎に、玉木が阿南にダブって見えた。
もちろん、風越は敗戦を受け容れられずに皇居に乱入した青年将校に、である。
後編を見ないと何とも言えないのだが、TBSは風越(モデルは佐橋滋)を貶めたいのか?
それとも、
青年将校のように動機が正しければ、何をやっても許されるのか?