大臣は特権官僚(キャリア)に歯向かってはいけない

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 城山原作の最高潮は、本命と目された風越信吾が、その横柄な態度が大臣の顰蹙をかい、事務次官になれなかった事件である。同期の玉木に敗れ、特許庁長官に回されることになる。
 これに関して、風越と彼の派閥は怒り狂う。
 官房長の第一声は
「いったい、大臣は気でも狂ったんですか」259頁。原文ママ。
さらに、大臣を面詰し、総理にも
「雑音を入れないようにしてほしい」←
269頁
 
 城山によれば、大臣の人事権発動に関しては、

「かなりの数の若手の特権官僚(キャリア)も動き出し」とのことである。←ルビは原文ママ。

  ここまで自己反省ゼロ、というのもすごいが、風越本人の言い分はもっとすごい。
「通産省のことは、通産省で、人事の粗筋も省内で決めるというのが、これまでのしきたりだった。いったい大臣が、どれだけ省内の人間のことを知っているというんだ。」←267頁。

 これくらいならまだわかる。次官に相談くらいはしてほしいという程度ならわかる。しかし、本音は以下のようにすごい。

「政治家による政治的人事に、官僚機構の論理がへし曲げられたままになる。許せない・・・」←275頁。
 「今度の人事は、明らかに政治的雑音によるもの。たとえ形式的に大臣に任命権があるとしても、次官や省内の意向を無視しての発令は、筋ちがいもはなはだしい」277頁。
 

 国民の代表として官僚機構を監視する権限のある大臣なのだが、

特権官僚(キャリア)の意に沿わぬ人事は行えないらしい。
 

 この人、どこまで自己中心的に出来上がっているのだ?そうれはそうと、風越一派の言い分、すべて単なる私憤である。

 戦前の内務省のように、政友会と民政党が政権交代するたびに幹部が全員辞表を出して、
全国の知事から末端の駐在さんまで入れ替わるというのもおかしいが、大臣が絶対に官僚
機構の人事をいじれないというのもそれもまたおかしな話ではないのだろうか。
 独走の元祖と言われる関東軍とて、満洲事変中の人事異動を受け入れている。
 それに比して風越はどうか?

 次期次官を約束させて、妥協しているのである。

 風越さん、関東軍でもできなかったことをできました。
 恐るべし、戦後の特権官僚。。。
(つづく)