近代日本政治思想史を四分割する(3)―福沢諭吉

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 福沢は、第三の立場です。日本が好きで、日本政府が嫌いな、典型的な人ですね。
 明治十四年の政変で、弟子たちが一掃されたわけですから、気持ちはわかります。
 福沢の何が偉いって、時の政府を恨んでも日本そのものは嫌わないというところですね。
 日本国と日本政府は違います。ましてや政府の一部の権力者が日本国そのものなはずがありません。

 単に学術的に高度かどうかだと加藤弘之なんかになるのでしょうけど、時代に対する影響力を重視してとりあげました。

 ところで、福沢諭吉の思想を一言でまとめるとどうなるでしょう?それは、

秀吉は偉い!

です。
 私、信長を過大評価する人ってその人の歴史リテラシーを信じないのですが、とりあえず徳富蘇峰の項とも合わせ読んでください。蘇峰への嫌味に読めるはずです。

 吉田松陰が修行時代に尊敬する人物として、神功皇后・北条時宗・豊臣秀吉をあげているのですけど、幕末明治の日本人にとって慢性的朝鮮半島危機な訳ですから当然とも言えるでしょう。その割りに、今は「秀吉を褒めると朝鮮人に怒られる!」とか叫ぶ人々がどれほど多いか。

 あと、福沢の代名詞として「一身独立して、一国独立す」というのがあるのですけど、これは「御国のために金儲けせよ」ということです。慶應義塾の建学の理念です。明治の「立身出世」の精神とはそういうことです。

 もう一つ、朝鮮半島に関しては、なぜ福沢が脱亜入欧論に走ったかです。
(最近は否定説もありますが、立証不十分として通説に従いました)
 明治初期から韓国併合までの記述を読んでいただければわかるとおり、
 当時の朝鮮の愛国者はみんな親日で、ことごとく悲惨な末路をたどっているのですね。
 どれくらい悲惨かというと、「凌遅刑」を調べてください。日本人の想像を超えています。
 福沢は、金玉均ら朝鮮の愛国者を三田の私邸に命懸けでかくまったりした人ですから、それだけに絶望が深かったのですね。

 今でも健全な企業人は、愛国者かつ政府への健全な批判者だと思うのですが。
 何だか正しい慶應建学精神講座みたいになりましたが、こういうこと言っている人、意外にいなかったような。

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