亡国前夜(番外)―総裁任期と総理の任期

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 日本郵政の新社長、斎藤次郎元大蔵次官に決定。鳩山首相は「一度民間人を経験している人だから天下りにはならない」との説明。もう、野党時代に武藤財務次官の日銀総裁就任に反対したこととの整合性は?と疑念を抱かれている。斎藤氏と小沢一郎氏の蜜月は秘密でもなんでもない。細川内閣を二人で壟断した仲なので。今回の人事、これ以上ないほどの党派的人事なのだが、世論がいつまで許すやら。

 まずは、総理大臣の任期と与党総裁の任期に関する質問があったので。

 そもそも日本の総理大臣は短命政権が多い。それは与党総裁の権力が弱いからである。自民党では他の派閥の協力を得ないと総裁選挙に勝てない構造なので、実質的に連立内閣と同じになってしまう。特に田中派や竹下派のように突出した派閥が他の一派閥の領袖を総裁に推せばそれで決まってしまう時代は、総理の力が弱まると言う構造的問題があった。時の総理は支持者である田中角栄や竹下登に逆らえなくなるのである。

 で、この自民党総裁選挙そのものが問題だらけである。お願いだから一字一句規定を変えずに二回連続行って欲しいのである。田中派や竹下派が総裁選挙の規程を優位に運用してきた点も見逃せない。小泉総理誕生の総裁選挙でも現職の森総裁が規定を変更したことが勝因の一つにあげられている。これは憲法上の習律というより、私的団体である政党の自己規律の問題である。

 政党は民主制に重要なのだから、国家に対する責任を意識しなければならない。勝手に総裁選挙の規程を変更してはならない。これも「陛下の与党」「陛下の野党」の義務である。それをどこまで習律や条文など、国法体系に組み込むかは国によるが。今の日本のように政党助成金でだけ繋がっているに等しいと言うのは再考の余地があろう。

 さて、本題に。日本の総理大臣の任期は衆議院と同じになるので、実質的に四年である。議員だけでなく、数百万人のその時の党員も参加できる形式になってからは、「党員に選ばれたのだから、(反主流派の)議員が引き摺り下ろしてはならない」という言説も出始めた。ここまでは理屈としてわかるのだが、前回までに述べた大平内閣や中曽根内閣では、「総裁選挙で選ばれた総理を、衆議院選挙で負けたからと引き摺り下ろしてはならない」という意味不明な言い訳をまかり通らしたのである。あくまで政党は私的団体であり、衆議院選挙は国民全体の審判である。本末転倒、極まれりである。

 大体三年に一回衆議院選挙がある。自民党の総裁選挙は、党則により二年か三年に一回ある。これでは、ほぼ毎年のように総理大臣は選挙をしなければならない。

 戦前や占領期の政党ははっきり言えば談合で決まっていたのだが、一概にそれが悪いとは言えない。英国保守党などは一九六〇年代まで談合で決めており、党首選挙という概念すらなかったのだから。選挙もやり方を間違えれば逆効果になる。少なくとも、失政のない総理大臣を与党総裁の任期が来たから、と引き摺り下ろすような真似はなかった。一方で、福田赳夫総理などはこれで引き摺り下ろされている。

 さて、英国に限らないが、総理大臣在任中は与党総裁の任期を数えないという国は多い。民主党も自民党もこれを導入するのには抵抗があるだろう。特に与党の形勢を見ると現実的ではなかろう。

 むしろ野党になった自民党の方こそこれを導入すべきでは。

 あと、英国の二大政党は、総選挙で負けると「敗戦原因究明委員会」のようなものを作る。自民党はどう考えているのだろうか。

「亡国前夜(番外)―総裁任期と総理の任期」への0件のフィードバック

  1. 倉山さん

    こんばんは。藤沢秀行です。
    迅速かつ本編での丁寧な対応、有難うございます。

    俗に「永田町の論理」という言葉がありますが(この言葉も遠からず死語になりそうですね)、上記の話はその最たるものという感じですよね。
    ここ数年の話で言えば、彼ら自身、世間とのズレを感じてはいてもどうしようも出来なかったのかもしれませんね。
    (安倍晋三と麻生太郎はズレを感じたかどうかは不明ですが・・・www)

    倉山さんの上記提案、自民党にとってはシビレる程の難題ですよね。
    まあ普通でしたら無理としたものでしょう。
    本当に出来れば世論の風向きもきっと変わるでしょうけどね。

    期待をしないわけではありませんが、社会党の再生が無かったように、
    自民党の再生も無いだろうと現時点では思われます。
    (余談ですが、社会党を対象にした学問的研究って聞かないですよね。
    もっとも、研究対象としての価値があるのかどうか・・・www)

    新しい形が出来上がるまで、また何回かの選挙が必要なのかもしれませんね。
    倉山さんの言われる通り、来年の参院選、質の高い選挙にしたいですよね。

    毎日に近い更新の上、回答付きで大変だと思いますが、これからも続けてください。
    シリーズの完結、楽しみにしております。
    それではまた、有難うございました。

  2. 倉山先生こんにちは
    そもそも総裁選が総理大臣の任期中にあるのはどうかと思います。
    それこそ政権が安定しない原因の一つだと思います。実際政局優先になってしまいますね。
    自民党総裁選と言えば、ポイント制にしたり一般党員の予備選をしたり県連票を増やしたり減らしたりと一貫性がないのはばかばかしい。
    中学生の学級委員を決める選挙はまだまともなのではと思うことが時たまあります。何とかこの体質を変えなければいけないのではと思います。
    〉藤沢秀行さん
    社会党を研究対象にするのは面白いと思います。
    個人的な見解ですが、浅沼委員長時代の社会党は今の自民党よりも右なのではないのではないのかと思うと気があります。

  3. >新田ひろし様
    かなり古い資料映像では、社会党の演説会が巨大な日本国旗の下で行われている、というものもあります。社会党が日の丸を掲げてる、って、ミズホちゃんやキヨミちゃんが見たらビックリするでしょうね^^。

    また、社会党の堤ツルヨ衆議院議員は「戦犯とされている人たちが、なぜ靖国神社に合祀してもらえないのか。」(←ビックリするでしょ。これ社会党代議士の発言だよw)と発言してたこともあるそうです。ある意味、その当時の社会党は現在の社民党よりはるかにマトモだった、というのは間違いないようです。

  4. 一貫性が無い自民党の総裁選も問題だと思いますが、学級委員きめの選挙だと個人の好き嫌いになってしまいそうですが(笑)
    人間と同じように政党にも寿命があるのではないでしょうか?無限に続く組織というのも存在しないと思います。年をとれば膿も溜まりますし、自民党ももう手術なしでは生きながらえないのに、手術をする気が見えないですし。もう、終わりじゃないですか

  5. 〉 叔父さんの息子さん
    A戦犯を合祀する決議で賛成してますよね。
    〉志木さとしさん
    政党の寿命はその政党の存在意義にあるとおもいます。
    結局のところ政権を批判することによって存在意義を見出していたのが社会党であって政権に入ったことによってその意義をなくしたために崩壊したのではないかと思います。

  6. 皆様こんばんは。藤沢秀行です。
    知らぬ間に余談の方の社会党ネタで盛り上がってました。
    倉山さんの渾身のご提言、どこに行ってしまうのでしょうか?
    wwwwwwwwwww

    でもまあ、ここまできたら脱線は百も承知、このサイトで社会党の話も悪くはない気がしてきました。むしろ私達の方が客観的な話が出来るのではという気さえしています。

    言ってしまった手前、私もほんの少しだけ、すぐにも剥がれ落ちそうな基礎知識を拾ってきました。今日は強く主張するつもりはありませんので、逆に話を整理して頂ける人がいたら是非とも宜しくお願いします。

    先日話した、小室直樹の応用として「社会党の勝因(勝てたかもしれないシナリオ)」を立てようとしてみました。
    事例として平成2年の消費税解散で考えてみました。

    前年の参院選で勝利した社会党、雰囲気は決して悪くないはずでしたが、結果は136議席、前回より増やしはしたがとても勝利とはいえない結末です。
    というよりこの選挙、立候補者の時点で149人に留まっています。
    最初から勝ちようがありません。

    そこそこの追い風ですらこの状況です。
    現時点での私の結論は、社会党の勝因はどこにもありません。教科書を読むまでも無く、最初から二大政党で無かったと言って良いと思います。

    ラフな形ですみませんが、何故立候補者が149人に留まったのかを箇条書きにします。

    1.内部分裂(結党時からの持病で見た感じ自民党以上):
    ⇒現職の議員が自分の選挙区に2人目を立てることを了解しなかった
    2.資金不足:元より選挙戦を戦いきる力そのものが無い
    3.中選挙区制(1とかぶるが):利益誘導の手段を持たない野党は2人目を立てて割り込む余地に乏しい

    中長期的な凋落原因としては、
    1.支持基盤の喪失(総評が連合に再編された事が少なからず影響していたと思われる)
    2.世界情勢の変化(世論の失望)
    3.1と2で失われた分を埋め合わせられるような新規支持基盤を獲得できていない(無党派層に訴える政策を持たない。日常の世話焼き活動では公明党や共産党に及ばない・・・等々)

    ※※(文言を変えれば、1〜3とも、自民党の長期凋落原因に当てはめられそうですね。やはり、自民党の再生は普通に考えれば、「無理!」だと思います)

    (社会党の)思想面にまで言及する力が無くてすみませんが、初回なのと長くなってきたのでご容赦ください。

    論点の多い話と思われますので、ご支援下されば助かりますし、嬉しく思います。それではまた、宜しくお願いします。

  7. 新田さん 叔父さんの息子さん 皆様
    こんばんは。藤沢秀行です。

    いつぞやの非嫡出子の相続の件ではどうもでした。
    今後とも宜しくです。

    お二方のコメントの件、私の方でも気になったのと、多少の興味もありましたので、簡単で申し訳ありませんが調べてみました。
    (ご存知でしたらすみません。それでも無駄にはならないと思いますので)

    日本社会党は、左派の労働農民党、中間派の日本労農党、右派の社会大衆党が団結して結成されました。
    その内、中間派の日本労農党と右派の社会大衆党は、社会主義の実現を国家主義に求めたので(「国家社会主義」と呼んでよいのかは不明ですが・・・)、軍部に対抗するのではなく、むしろ協力的であったということです。

    浅沼稲次郎は中間派の日本労農党の出身ですので、新田さんが言われるような発言や対応もあったと思われますし、この経緯からすれば、彼らにとっては不自然ではないのでしょうね。
    (今の感覚からすればビックリですけどね)

    日本社会党は基本的に左派の方が強かったという事ですから、時代の流れと共に取り残されてしまったという事なのでしょうね。
    (当たり前の事をもっともらしく言うなと言われてしまえばその通りですが、では自民党が今いる場所はどのへんなのでしょうねという気もします)

    ・・・話が最初と変わってしまうのですが、今思った事をそのまま書きます。
    今回の件、私自身、瓢箪から駒でしたが、色々書いているうちに気持ちと意見が固まってきました。
    新田さん、ある意味感謝致します。有難うございました。

    結論にしたいと思います。

    自民党関係者及び支持者の方へ
    「社会党と同じ末路を辿りたくないならば、社会党の研究をするべきです。
    そこに再生の鍵があると思います。あなた方の道筋と立ち位置は、社会党のそれと非常に良く似ています。
    党内の言論を自由にして、来年の参院選に向けて国民に対して敗因究明の過程と結論を聞かせてください!」

  8. >新田ひろし様
    「合祀する決議」というより、正確には「名誉回復の決議」じゃなかったかな?たしかあれは昭和28年に国会で全会一致で可決されたと思います。このあたりの事情は、小林よしのり氏の『靖国論』(幻冬舎刊)に詳しく載っています。ちなみにウチにはなぜか山中恒氏の著書『すっきりわかる「靖国神社」問題』(小学館刊)もあります(どうやら兄貴が買ってきたものらしい)。読み比べるとなかなか面白いですよw。

    >藤沢秀行様
    いえいえその節はどうも。私の勝手な問題提起にお付き合い頂きありがとうございました^^。
    社会党の歴史、私もあまり詳しくなかったので、勉強になりました。ありがとうございます。たしかに、社会党の凋落の歴史を研究して今後に活かす、というのは、今の自民党に必要なことではないかと思います。志木さとし様の言われる「自民党はもう終わり」というご意見にも一理ありますが、かといって今後民主党の一党優位が構築されれば、「結局自民党のポジションを民主党が奪っただけで、国民から見れば何も変わってない」ということになり、それこそ悲惨です。もちろん自民党に代わる新保守政党が誕生してくれれば良いのかも知れませんが、国民はもう「新党」にも飽き飽きしてると思います。一昔前は、政治家を目指す有能な人材は殆どが自民党に入党したわけですし、人材が枯渇したということもないでしょう。今回の負けをしっかり反省した上で、連立などというセコい手を使わずとも民主党と政策論争で渡り合えるように変革してくれることを望みます。

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