ご質問へのお答えの日ー満洲事変の正統性

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 本日は急遽予定変更。
昔、『歴史通』に書いた「満洲事変は国際法違反ではない」に関して、熱心なご質問をお問い合わせフォームにいただきましたので、ご本人の許可を得て、ご紹介させていただきます。ほぼ前文抜粋です。

Q1
前略 失礼いたします。
いつも勉強になっています。
突然のお便り申し訳ありません。

「満州事変は国際法違反ではない」という先生の主張に関して、納得できる部分も大いにあるのですが、満州事変は国際法違反である前に国内法でも違反だろうと思うのです。
関東軍の自作自演による柳条湖事件をきっかけにして、関東軍が暴走しました。軍上層部や日本政府の不拡大方針に対して派遣軍である関東軍の暴走はまだしも、現地軍である朝鮮軍の独断越境は全く擁護のしようがないものと思います。
彼らは反逆者として処罰されるべきだったのではないでしょうか?

満州事変は当時から国際的に大きな批判を呼び、国際連盟脱退にまで至りました。
その結果、日本は滅亡にまっしぐらに向かいました。
その当時の国際法に違反していないという理屈が成り立つとしても、道義的にも戦略的にも過ちであったことは間違いないと思えるのですが。

当時ですら国際連盟ですら支持されず、日本国内でも反対の多かった満州事変を今更ながら正当化するような時代遅れのプロパガンダを外国人が聞いたら、大いに批判されることになるように思います。

長々と申し訳ありませんが、今後も先生のウェブサイトで勉強させていただきたいと思います。草々

A1
ご質問、ありがとうございます。
お答えさせていただきます。
 
一、国内法
本来ならば、関東軍や朝鮮軍の行動は統帥権干犯で司令官は処刑されるべき重罪です。
だからこそ、政府が厳命した場合は、関東軍も「独走」を思いとどまっているので脱法行為しかしていません。
 
ただし、若槻総理が閣議で予算措置を認め、行動を追認していっています。
その後の枢密院での承認も含め、「総理大臣の統治行為」と呼ぶべき事態です。
 
二、自作自演
よくこれが問題になるのですが、当時どころか、東京裁判ですら問題になっていないので取り上げる必要もありません。
仮に取り上げたとしても、中華民国・張学良政権に度重なる明らかな挑発行為があった以上、法的には取るに足らない事態です。
 
三、道義的、戦略的間違い
その通りです。
国際法的に違反していないからこそ、この間違いが際立つのです。
 
四、国際連盟の支持云々
日本の宣伝の失敗です。
国際法とは無関係です。
 
五、満州事変を今更ながら正当化するような時代遅れのプロパガンダ
まず「満洲事変」です。「満州事変」ではありません。
時代遅れのプロパガンダが何をさすかわかりませんが、
本当に悪いことをしたならなおさら自己正当化するのが国際社会です。
やってもいない悪いことならやはり自己正当化しなければなりません。

Q2
おはようございます。
お忙しいところ、早速のお便りありがとうございました。
疑問点がいくつも解決され、大変勉強になりました。

二、についてですが、本庄繁大将も柳条湖事件をもとに出兵したことをニュースで演説しているのを見たことがあり、非常に象徴的な出来事であったと思っていました。
爆破の程度も軽く、事件直後に列車が通過できたという話も聞いたことがあります。
私が愚考するに、本庄大将は張学良政権の日本に対する非情な対応と挑発行動そのものを訴えるべきであったと思うのですが、自作自演と認定されてしまった柳条湖事件を事変勃発の主因としたのは宣伝の失敗のように思います。

五、に関しては私の思い込みがあったと思います。
先生のご意見を表面だけ理解して、現代の中国人や朝鮮人を煽るような書き込みをする人達をネットで多数見たので、このような失礼な表現になってしまいました。
申し訳ありません。

A2はこの砦にて。
二、なぜ、張学良の挑発や中華民国の統治能力喪失を宣伝しなかったのか
仰るとおりです。宣伝下手は目を覆うばかりです。
繰り返しですが、国際法的に悪くないだけに余計に際立ちます。
あえて関東軍の立場に立てば「わかりやすいから」だったのでしょう。

五、
特にありません。

 以上、私の答え方が相当にぶっきらぼうだと思いますが、独り言の応酬ではなく、対話になっている例としてご紹介しました。
 ちなみに学生諸君に質問の仕方を一例を挙げて。
「総理大臣の統治行為」など、普通の日本人大学生には理解不能でしょう。
 ただし、日本国憲法学の「統治行為論」は調べればすぐわかります。
 それを調べた上で、
「自分の理解するところはかくかくしかじかであるが、よろしいか」
「どういうつもりでそういう評価を下すのか」
という質問をすれば、対話になります。