今回の対象は大英帝国です。日本人が想像するイギリスではありません。
本書の主題の一つが、W・チャーチルの再検証です。
ここで今や英国最高の英雄とされているチャーチルの功績を考えて見ましょう。
ブリテン島をナチス・ドイツの侵略から守った。
だけです。
それが、すべてのように片付けてはしゃいでいる歴史観が主流でもありますが。
ファシズムに対するデモクラシーの勝利とか。
では、そもそも大英帝国の戦争目的は?
ポーランド以下、東欧の解放です。
では1945年以降の東欧はどうなりましたか?
ほとんどすべてソ連によるファシズムの支配下におかれました。
むしろナチスよりも残虐な支配が45年間もの間、続きました。
これのどこが勝利?むしろ完敗です。
しかも、ドイツやイタリアよりも戦後復興が遅れ、さらに10年の配給生活を続けました。
さらにしかも、七つの海を支配していた帝国は失われました。
世界史最強の帝国は、錯誤を重ねた末に、大日本帝国と刺し違えてしまいました。
ついでに言うと、アジアにおける大戦の本質は日英戦争です。
アメリカなど、本来はお呼びではありません。
紙数に余裕があれば描きたかったのが第二次中東戦争(スエズ動乱)なのですが、
ここで英仏はこれでもかとみっともない負け方をするのですね。米ソに。
チャーチルを継いだイーデン首相はショック(本当に麻薬に手を出したらしい)で退陣してしまう。。。世界を支配していた大英帝国は、米ソに分割されてしまいました。
これではチャーチルを英雄にでもしなければ、ごまかしようが無いわけです。
チャーチル自身、大戦末期には暴走するアメリカに頭を抱えながら何もできないのでして。
あの手この手で自分で引き込んだ以上自業自得ですが、とにかく大英帝国を守れなかったのは間違いないです。
一方、「英雄・チャーチル」に比して、これでもかと貶められているのが、先代首相のネヴィル・チェンバレンです。悪名高くされてしまった「宥和政策」にしても、ソ連とドイツのバランスを考えているわけで、じゃあナチスを潰してソ連に覇権を与えたチャーチルはどうなのか?とならないと議論がおかしくなります。これは私が勝手に言っている訳ではなくて、大昔からA・J・P・テイラーなんかは指摘していたことです。最近の欧米の学者は歴史歪曲のために、日本の学者は単なるモノ知らずか健忘症で無視していますけど。
戦争の勝利は何によって判定されるか?
目的を実現できたか、です。
大英帝国は如何?
ちなみにこの論点に関して、「ミュンヘン会談〜独ソポーランド分割〜英仏宣戦」のくだりは、我ながら自信作です。
長年思索していたのですが、ヒトラーとチェンバレンが一つずつ致命的な錯誤をしているのですね。
なんと、これを2回にわたり書くのを忘れていました。
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