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とうとうNHKが帝国憲法の偉大さを称える?

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「官僚〜」の裏番組でNHKが吉田久大審判事(今の最高裁判事)の「気骨の判決」をドラマ化していた。

 一般にはなじみがない人物だが、法制史では有名な方。「昭和十七年衆議院選挙の鹿児島選挙区での大政翼賛会の種々の妨害行為は公職選挙法に照らして違法である」として選挙のやり直しを命じた人物。

 同種の事件で、すべての判決が翼賛選挙の合法を判示しているだけに「気骨の判決」とされる。ちなみに史実でもドラマでも、判決言い渡し直後に辞表を提出し、大学教員に(中央大学)。

 この事件の示す論点は以下。

一、「時局」「政策の利害の比較考量に鑑み」などと、「政府のやったことは正しいという前提に立つべき」とする裁判官が多かったということ。

二、それでも、裁判官の職権行使の独立は守られたこと。同時期のナチスは、司法権独立を尊重する建前を吹聴しつつ、無罪放免された被告を裁判所の外で私刑にしたりした。スターリンのソ連は言うに及ばず。

三、政府の方針に逆らった吉田が、大学教授として市民生活を送れたこと。受け入れた大学はお咎めなしである。せいぜい、吉田に尾行がつきまとったくらい。英米と比べても戦時下では異例。対日戦争に反対したリンドバーグがアメリカ社会から抹殺された例を想起されたし。

 あと、番組ではあまり描かれていないが、東条英機という人は、自分の統治行為の違憲性はかなり自覚しているのである。例えば、陸軍大臣と参謀総長の兼任問題では、辞表提出を拒む杉山元参謀総長に「違憲だ!」と抵抗された時には、(お前に言われたくないとばかりに)「非常時だ!」と論破しにかかっているのだが、貴族院議員5人が官邸をひそかに訪れ問いただしにきた時は素直に謝った上で「非常時なので許してください」と低姿勢なのである。東條は良くも悪くも生真面目な官僚なので、法律論とか細かいことはかなり気にするのである。

 さて、現代の問題として重要なのは「一」である。戦後の最高裁の政府正当化のすさまじいこと。これ、実は戦前も戦後も変わりないのである。むしろ帝国憲法下でこそ吉田久のような立派な裁判官が存在したとも言えるし、逆説的に裁判官に勇気があれば、立憲主義も法の支配(法治主義)も守れる、ということを訴えたかったのか。

 立憲主義において大事なのは、憲法の条文に何が書かれてあるかではない。法の精神を守ることである。条文と解釈をこねくり回して、政府の違憲違法非立憲的行為を正当化してはならないのである。

 新旧憲法下における司法権のあり方、極めて重要な問題なのだが、ひとつだけ。日本国憲法下においてこそ、権力に弱い裁判官は多い。

 NHKが帝国憲法下において気骨のある裁判官がいたと、帝国憲法は法として生きていた、とする番組を作った意義は大きい。NHKにも心ある人はいるみたいだ。

 JAPANデビューみたいな愚かな番組もあるが。