おなじみ、上念司先生の新作です。
『歴史から考える 日本の危機管理は、ここが甘い 「まさか」というシナリオ』 (光文社新書)
「はじめに」からして、「デストロンとグロンギ」の比較という、エンタメ炸裂ぶり。
私は「〜ライダー」は専門ではないので詳しく解説できませんが。笑
「あとがき」の献辞が、
私と浜田宏一イェール大学教授と中原伸之元日銀委員
って、なんかすごい並びだ。
江川・西本を差し置いて開幕応手になってしまった定岡、といったところでしょうか。笑
ありがたいことに後輩の私を立ててくれます。(感謝)
さて、本書は「陰謀論」にして単純な「陰謀論」の話にあらず。
歴史に学ぶ危機管理の本です。
よく「日本人の自虐意識」と言われるのですが、
一つは「日本人は悪うございました」という意味の自虐。
これは道徳的な話なので、それ自体が日本を敗戦国のままにしたい人たちの陰謀。
典型的なレッテル張りですね。
本書では、日本を滅ぼしたい人の手口が満載。
マニュアルとして整理されているところは『孫子』の如し。
この辺りは、20年間後輩として著者を見てきた者としては、なぜこんなことを書いたかがよくわかります。
「卑怯な議論をする人たち」への怒りでしょうか。そういう人たちが日本を悪くしているので。
『孫子』があらゆる兵家のマニュアルとなったように、本書も議論の簡易マニュアルとなるのではないでしょうか。
本気で使いこなす意思があるなら。
もう一つは「日本人は愚かでした」という意味の自虐。
たとえば日本が敗戦に至ったという原因を追究(追及ではない)するとしましょう。
確実に証拠がある実証主義歴史学の手法だと、原因は日本人の誰かにしか行き着かない訳です。
なぜなら、「スパイ」のようなものは「ゾルゲと尾崎」のような断片的にしか史料に現れないので、その部分は「わからない」としか言いようがないのですね。だから、敗戦に至った原因も「近衛文麿(を支持した日本人)が愚かでした」としか言えないのです。
この手法では絶対に「日本はスパイの罠にはめられた」とは言えない。
そして「今度は同じ手口にひっかからないようにしよう」という反省ができないのです。
しかし、
著者の問題意識は「自分の国が滅んだ後に事実が確定してどうする?」
です。
『ヴェノナ』の公開により、開戦前の日米首脳側近にはソ連のスパイがあふれていたという事実がようやくわかってきました。
(それでも全貌には程遠いのですが)
ソ連崩壊から5年後、大日本帝国滅亡から50年後です。
危機管理―日本を危機から守るには、「まさか、そんなことがあるはずがない」ということも考える必要があります。
原発事故で「想定外」を連呼した東電を日本人は猛攻撃しました。
しかし、日銀がデフレ円高誘導しても「まさか日銀のような秀才集団がやるのだから何か理由があるのだろう」と思考停止してしまう国民。
日本を守りたい、滅ぼしたくない人に必読の書です。