教訓とすべき総裁選挙(完)―小泉旋風

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 田中真紀子文相が新設大学の認可を3校も取り消したとか。
 人生狂う教員やら職員やら学生が大量発生ですな。
 そういう人たちが「一刻も早く解散総選挙をして民主党政権を引きずりおろしてくれ」
というのは正当な権利ですけどね。
 ただし、その人たちの主張が日本の国益と一致するかは別として。

 さて、最終回はその田中真紀子に国民的人気があった時代の話。

 『財務省の近現代史』に書いたけど、
この選挙、どう考えても小泉さんが勝つとしか思えなかったんだよなあ。

 各派閥と有力者の大きな動きは以下の通り。

旧竹下派(旧小渕派)
 正式名称は橋本派。
 青木幹雄と野中広務が竹下死後の主導権争いをしていた。
 橋本龍太郎と野中は親中・反財務省。
 青木はバリバリの大蔵族で、表向きは国際政治はおろか政策に興味のない利権屋。
 100人強の最大派閥のはずが、参議院を牛耳る青木は橋本や野中に非協力。
 裏で小泉と気脈を通じる。
 出馬した橋本は右往左往。どこが最有力候補なのだろう。

森派(小泉純一郎会長)
 総理大臣の森喜朗を送り出している総裁派閥。
 実質は小泉派。
 小泉が「脱派閥」を掲げて派閥を(表向き)離脱しても、
安倍晋三や山本一太ら若手は「我らが大将」と呼んでいたくらい小泉派。
 森は後に自分を後見人と思い込むが、番頭。
 小泉は親米派にして大蔵族。

 さらに、山崎拓と加藤紘一の派閥も小泉支持なので、基礎票は100票。
 小泉は、議員票で最大勢力としてスタート。

堀内派
 領袖は堀内光雄だが、現職自民党幹事長の古賀誠が野中広務と組んでやりたい放題。
 橋本・野中を支持すると思われていたが、堀内は小泉に通じる。

江藤亀井派
 亀井静香が立候補。しかし、露骨にキャスティングボート狙いもしくは猟官運動。
 領袖の江藤隆美は、若手に人望のあった平沼赳夫の出馬を抑える。

麻生派
 領袖は河野洋平だが、麻生太郎経済財政担当大臣が立候補。
 極端な親米派と親中派、犬猿の仲だった河野一郎(洋平の父)と吉田茂(太郎の祖父)。
 なんでこの二人が同じ派閥で一度も喧嘩したことがないのだろう思っていたら、
 よほど加藤紘一が嫌いだったのだろう。

高村派
 領袖は高村正彦。しかし、大島理森ら野田聖子を擁立しようという勢力も。
 今でこそ「シナポチ筆頭」みたいに言われる高村も、このころは「アメポチ」のように目されていた。
 草刈り場になるのを恐れ、麻生支持に。

 さて、議員票が衆参両院で約400票。
 地方票は各県に1票ずつだったのを、総裁の森が「地方の声を反映しよう。各県3票だ!」などと規定を変えてしまう。
 地方票が47票からいきなり141票に。

 ここで小泉の作戦。
 森・山崎・加藤の支持を取り付けてから、「派閥離脱」を宣言。
 国民的人気の高い田中真紀子を連れて全国遊説。
 巨大な橋本派(野中・古賀ライン)に挑む改革の旗手のイメージを演出。

 後で小沢一郎陣営がリークしているけど、密かに小沢を訪ねて
「このままでは野中・古賀に殺されます!
 負けたら脱党しますので助けてください!!」
と土下座したとか。
 小沢は「まあまあ、総裁選挙が終わってからにしましょう」と引き取ったことになっているが、
首相になった後の小泉は「何の話だ?夢でも見たんじゃないの?」という態度。
 プライドは一文の得にもならんけど、土下座はタダですからねえ。

 マスコミ付き全国遊説が盛り上がりを増すとともに、議員への切り崩し工作も快調に。

橋本派
 熱心に動く幹部は野中一人。
 青木は完全にサボタージュ。小泉への好意的中立どころか、橋本というより野中の敵。
 青木は小泉・安倍政権を通じて参議院自民党のドン。

堀内派
 堀内が小泉に切り崩される(選挙後、総務会長の椅子をもらう)。
 自主投票に。橋本の基礎票が大崩れ。

江藤亀井派
 小泉と「政策協定」を結び、亀井は立候補を取りさげ。
 その内容が「郵政民営化をやらない」とか。
 小泉、江亀派の票だけ食い逃げ。

麻生派
 領袖が立候補しているので切り崩しには合わない。
 選挙戦途中から小泉にい秋波を送る。

高村派
 麻生支持で固め、小泉対野中の戦争に局外中立。

 森・山崎・加藤の結束は強固。
 ということで、地方票では当然圧勝、議員票の切り崩しも功を奏して、雪崩現象。

 詳しくは『財務省の近現代史』に書いといたけど、どう計算しても小泉が勝つ選挙なのですね。
 アメリカと財務省と参議院を味方につけていたので、負けようがない。

 石破さんはこれを狙っていたんでしょうね。
 ただし、長老の切り崩しに失敗したということ。
 派閥政治では安倍さんの方が石破さんより圧倒的に上手だったということ。
 で、良いのか???