憲法とアーカイブ

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くどいが、最初に言っておく。
私はTPPに賛成とも反対とも言ったことは一度もない。
だからその観点からの意見はお門違いだという前提で、以下を読んでもらわないと困る。

まず記事。

民進「情報隠し」追及 西川委員長著書では「開示」 衆院特別委
http://mainichi.jp/articles/20160408/ddm/005/020/025000c

要するに、
・西川前農水大臣が著書でTPP交渉の内幕をばらしたと民進党の玉木代議士が追及。
・玉木代議士は「ゲラを持っている」とさらに追及。

ついでに言うと、西川氏の派閥の領袖の二階氏は「出版するな」と言っているとか。

派閥の長から“出版待った”をかけられた西川公也のTPP武勇伝本
http://www.dailyshincho.jp/article/2016/04190500/?all=1

二階氏云々は週刊誌情報だとしても、国会でのやりとりは衆人環視の事実。

さて、以下の事実に関しては誰も否定できまい。

・民進党と言えば、保守の論客が蛇蝎の如く嫌っている政党。
・民進党と言えば、日本国憲法の擁護を売りにしている政党。

では、次の条文を読んでみよう。

日本国憲法第二十一条
第一項
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
第二項
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

出版の自由は保障され、検閲をしてはならないらしい。
出版における「検閲」とは、出版前にその内容を入手して出版を妨害すること。
こんなのは「検閲」を辞書で引けば分かる。

民進党玉木代議士のやっていること、完全に検閲ですね。
しかも、
玉木氏は西川氏の著書の「ゲラを持っている」と紙束を掲げた。
とある。

玉木氏は「守秘義務違反だ」と問題にしたいのだろうが、
ではその証拠をどうやって入手したのか。
出版前のゲラを入手し、国会で議員として質疑を行って、出版を阻止しようとしたら、
これは憲法が禁止する「検閲」に当たるのではないか?
まさか、「野党だから出版の自由を侵害しても権力の行使ではないから憲法違反ではない」とでも言うつもりか。

もちろん、出版前のゲラが出回る悪習の存在など承知しているが、そもそもそれが悪習であり、しかもそれを使って出版を妨害するなど、文明国の通義に反するのではないか。

日本国憲法の擁護を口にしているのに白昼堂々と議会で憲法違反を行う、日ごろは民進党の悪口で溜飲を下げているのに、こんなあからさまな横紙破りを見逃す。

誰も言わないので指摘しておく。
この理屈、藤尾文相罷免事件の時に小室直樹さんが散々指摘していたが、護憲派はともかく、改憲派も劣化したものだ。

そして、もう一つ。
西川前大臣は、交渉過程を本に掲載するという。
まさか記憶だけで書いたわけではあるまい。それで黒塗りなど不可能。
では、役所の現用資料である公文書(こうぶんしょ)を、私的利用したということか。
昔から、大臣や政府の人間が公文書(こうぶんしょ)を家に持ち帰って私文書(しもんじょ)化させるという例は、
枚挙にいとまがない。
今回の場合は、西川氏が同じことをしたとしても、TPPは現在進行形の事案なので、歴史史料と化した私文書(しもんじょ)ではなく、現用の私文書(しぶんしょ)になる。
大臣や政務三役が文書(ぶんしょ)を勝手に役所の外に持ち出さないようにする規則が
重要ではないのか。
「機密保持」だの「守秘義務」だの言いたいなら、アーカイブ(文書管理)をまじめにやらねば。

以上、これも私が言わねば誰も言わなさそうだから言っておく。