伊藤対山縣―ガチかヤオか―

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 このシリーズ、『歴史読本』の予告というか、書き足りなかったことというか、さらなる背景説明をしたいと思います。まずは「首相の座をめぐる八大抗争史 前編」。後編は戦後なので他の人です。全体として、「背景として憲法を知りましょう」と「誰が大事な登場人物かをおさえましょう」です。

 さて第一戦は「伊藤博文対山縣有朋」の元老対決。この対決の見所は、ズバリ「ガチかヤオか」です。ガチンコの潰しあいか、適当なところで着地する八百長か、である。

 というのは、この二人が性格合わなかったのは確かだけど、相手を抹殺するまではやりあわないのである。最後の決着だって、山縣が伊藤を韓国に左遷したのか栄転させたのか、人によって解釈が分かれるところであろう。「結果的にヤオ」である。

 明治四十年の四国協商までは、お互いに国家に必要な人材と認めあっているし、そんな政争をしているわけではない。余裕もないし。歴史学者や好事家がいくら細かいエピソードを持ってきても、所詮は痴話喧嘩の範疇?平成九年までの自民党政治と同じで、やはり「ヤオ」である。

 もう一つの重要な理由は、自由民権どもに乗っ取られた衆議院を、伊藤も山縣も言うこと聞かせるのに頭を抱える訳である。元老の内閣、すべて予算をめぐる衆議院との対決で潰されているので。帝国憲法六五条の予算先議権。これ、無敵の拒否権である。ついでに議会開会前の第一次伊藤内閣とか黒田内閣、さっそく大隈重信に媚びへつらってしまうのである。制度はともかく実態は「大宰相主義」などとほど遠いし、教科書で出てくる「超然演説」など言いっ放しで終わりである。

 普通選挙とか政党政治とか、何かができたか、の視点で考えると、衆議院は無能なのだが、決して無力ではないのである。民衆の視点―これを「昔流行った階級史観」と言う―などで見ると、元老が衆議院の要求を拒否しているように見えるのだが、元老からすると、「政府は外国に弱腰だ!戦争やれ!でも税金負けろ!」などと矛盾極まりない主張をする衆議院に次から次へと内閣を潰されるのでは、たまったものではあるまい。伊藤&山縣の長州は板垣系と、黒田や松方の薩摩は大隈系と交互に提携して議会を乗り切ろうとするのだが、最後はごまかしが聞かなくなるのである。

 板垣と大隈が手を組んでしまい、登場したのが、衆議院議席総数の87%の超巨大与党を有する憲政党である。絶望した伊藤と山縣は、御前会議でもある元老会議で、最初は激しく罵り合うのだが、最後はお通夜のようになるのである。(この話、つづく)