高校生物の知識で皇室を語る愚説三つ

LINEで送る
Pocket

皇室が守ってきた歴史を無視して、高校生物の知識如きで皇位を語る不敬の輩が後を絶たないので、正しておく。

皇室は血統原理、つまり血によって成り立っている。しかし、血だけで支えられているわけではないし、他の原理つまり歴史を無視してよいわけではない。当然、血は大事だが、唯一絶対ではない。
以下、愚説を三つあげるが、本題はその三。前二つは前提知識と思っていただきたい。

その一 Y染色体遺伝子

もはや伝説の愚説。

まさか皇室の尊厳を語るときに、遺伝子などを持ち出す輩がいるとは思わなかった。
この御仁は、日本人がアルファベットを知る以前から皇室が存在することを知らなかったのだろうか。
以上、これ以上取り上げる価値無し。

その二 皇別摂家ほか

「皇別摂家」とは皇族を養子に迎え入れた摂関家(近衛家、一条家、鷹司家)の俗称。例えば近衛家は後陽成天皇第四皇子(近衛信尋)を迎え入れている。
近衛文麿は、後陽成天皇の男系子孫である。高校生物の知識に基づく議論が許されるなら。しかし、少し皇室の知識があれば、近衛文麿を男系子孫と言う者はいない。百歩譲って生物学的な話をしても、近衛に皇位継承資格などない。さすがの近衛も、生前一度もそんなことを口にしたことがない。少なくとも、そんな記録など見たことがない。

少しの皇室の知識とは「君臣の別」「五世の孫」のこと。

君臣の別とは、皇室と臣下の別のこと。
今の皇后陛下は「庶民初の皇后」ではあるが、「民間人初」ではない。陛下は貴族(公家、華族)出身でなかっただけで、民間人初の皇后は藤原光明子(光明皇后)。なぜそうなるかと言えば、華族も庶民も皇室から見れば同じだから。

五世の孫とは、皇位を継承しなかった親王家は五世の孫までで臣籍降下する、との原則のこと。つまり天皇の直系男系子孫であっても、皇族ではなくなる。君臣の別によって厳しく分けられる。
たとえば、桓武天皇の曽孫(四世)の高望は、臣籍降下し平の姓を賜り、平高望と名乗った。桓武平氏の祖であるが、君臣の別により皇族とは扱われない。
平将門は桓武天皇の男系子孫であるが、皇族でもなければ皇位継承資格もない。
同じく男系子孫である平清盛に至っては、白河法皇の御落胤説もあったが、「男系子孫だから皇位継承資格がある」だの「血が濃い」だのという話にはならない。
清和源氏の嫡流である源頼朝も「貴種」と扱われたが、皇族とは君臣の別が厳然とあった。頼朝は清和天皇の男系子孫であるが、五世の孫をとっくに離れていたので。

生物として血がつながっていいれば皇族、皇位継承資格がある、などと単純化するのは、皇室の議論ではない。

非常時における宇多天皇や醍醐天皇の先例はあるが、例外中の例外。

その三 東久邇宮家の男子は皇太子より血が濃い

この主張をする人間は、皇室の歴史において重要な「直系」「傍系」という言葉を知らないのだろう。

さきほどお亡くなりになられた東久邇信彦氏の男性子孫のことか?
私も東久邇宮家の復活と元皇族である信彦氏の子孫である男性(元皇族と区別して旧皇族)への親王宣下を訴えているので、俗流の議論とは一線を画させてもらう。

大前提。信彦氏は両親と四人の祖父祖母の全員が皇族。母方の祖父は昭和天皇であり、女系では明治天皇の曽孫にあたる。
その息子、孫にあたる方々が皇太子殿下より皇室の血が濃いかどうかは生物学的にも疑問だが、そんな高校生物の議論はどうでもいいので捨象。

問題は、皇太子殿下は今の皇室の直系に当たる方。こんな話は日本人なら言うまでもないが、高校生物の知識ごときで皇室を語る輩がいるので言わざるを得ない。

皇太子殿下から、今上陛下、昭和天皇と辿っていくと、光格天皇にたどり着く。光格天皇は閑院宮家出身なので、当時は「傍系継承」と言われた。後桃園天皇の崩御により当時の直系が絶えたので皇位を継承し、以後は光格天皇の男系子孫が直系となっている。ただし、皇位を継承した子孫が直系であり、血を引いている男系子孫でも多くが臣籍降下したので、君臣は別。

よって、今の皇太子殿下の皇位継承に何の疑義もない以上、皇太子殿下より血が濃い人間などいない。

では、皇太子殿下より血が濃い人間がいると主張するとは、何を意味するか? 口にするもの憚られるが、不敬を明らかにするために、あえて言語化する。

一つ、皇太子殿下の母上である皇后陛下が皇族出身ではないので、母親も皇族である東久邇宮信彦氏の方が皇室の正統である。

二つ、よって皇太子殿下が皇位を継承すると「偽主」であり、その後は「偽朝」となる。「偽主」「偽朝」は、南朝が北朝を罵倒したときの文句。明治になり、かのテロリスト幸徳秋水も唱えた。

ちなみに、足利義満は後円融天皇とは、それぞれの母が姉妹で、いとこである。「だから何?」と言いたいが、血が濃いだけで皇族になれる、つまり皇位継承資格があると言い出すことは、簒奪の理屈にもなりかねない。義満の皇位簒奪計画には学界の多数派疑義を示しているが、その連中も全員が後円融天皇を廃人同様に追い込み憤死させた事実は認めている。
皇太子殿下の正統性に疑義を挟むとは、そのような議論を正当化する議論にもなりうる。

もちろん血は大事だが、今の皇室の直系は誰か? という議論も大事に決まっている。高校生物の知識だけで、歴史の重みがある「直系」を無視した議論の危険性には警鐘を鳴らしたい。

この程度は皇室の歴史に軽く触れただけだが、皇位継承は我が国の最重要事であり、高校生物如きの単純な議論を持ち込んでよいものではない。

きちんと皇室の歴史を勉強しないで皇位を語るのは、不敬と心得よ。

 

 

「高校生物の知識で皇室を語る愚説三つ」への16件のフィードバック

  1. わー、倉山先生からきちんとした解説、嬉しい!有り難いです!

    私は文系の学問は苦手ですが、その一の「Y染色体遺伝子」。コレを始めて耳にした時、ブッチン切れましたよ! だって天皇家に伝わっているのがD系統と仮定した場合。計算上では大凡で2000万人も皇位継承者がいるって話になるんですもん!!!
    普段から、アイヌ問題でDNA(遺伝人類学)を扱っていますから。そのトンデモぶりに、目玉が飛び出るかと思いましたよ!

    皇室問題に取り組んでいる活動家の話によると、「原発ガー!」の科学者(ウラン工学の専門家)から教わった、とのことでしたが。

    それと、「君臣の別」。コレ、本当にそうですよね。伝統に法り、歴代天皇の命で臣籍降下した皇別摂家の方々や源氏・平氏・橘氏と、GHQにより皇籍を剥奪された元宮様のお血筋では、全然話が違います。
    詳しくは知らなくても、ものの道理さえ弁えていれば、これくらいの判断はできる筈です。

  2. 徳川御三家を考えれば、傍流宮家を(今はないが)存続させるべきだろう・・
    昔、側室もいて、何十人も皇子が生まれる時代に側室の血筋、すなはち、后の皇族の血の近さを優先していた時代もあった。
    現在の皇室には側室はないが、皇位継承者は男子、生まれた順、直系優先(兄弟間ではなく長男の子が相続)と決めたんだから、それに従うべき、、
    それを覆そうとするのは日本を内戦に追い込み、国家転覆と侵略を狙う者に違いない!

  3. 皇室は今上天皇の私物ではありませんから、
    今上天皇の直系のみで成立させようとする理屈はおかしいです。
    神武天皇から見たら、全て直系ですから。
    神武天皇を初代として、そこから現在の天皇まで
    男系男子(中継ぎとして女子も)で継承されてきたわけですから。

    皇位継承順位は、
    徳仁親王殿下、文仁親王殿下、悠仁親王殿下の順で誰も何も言わないでしょう。
    ただ、悠仁親王が誕生されるまでは、
    「もう皇室はおしまいだぁ。女系天皇を認めるしかない」という意見が大勢でした。
    誕生されたものの、次は
    悠仁親王殿下が成婚される際に、
    成婚相手には「何がなんでも男子を産んでもらう」という
    凄まじい圧力がかかることが予想され、
    相手が決まらないことも予想できます。
    それは即ち、悠仁親王殿下を最後に皇室(日本)は滅びることを意味するわけですから、
    その圧力を激減する意味で、
    男系男子がいらっしゃる旧皇族に宮家として元に戻って頂くのが簡単かつ確実な方法です。
    それにケチをつける倉山さんは
    皇室が滅びれば良いと思っているとしか思えないのですが、
    アメリカや中国や朝鮮辺りからお金でももらっているのでしょうか?

    1. シェンムーIIIを待つものさま

      倉山先生は今回かなり丁寧に解説していますが、ちゃんと本文読んで書いてらっしゃいますよね?

      >男系男子がいらっしゃる旧皇族に宮家として元に戻って頂くのが簡単かつ確実な方法です。

      確認しますが、倉山先生は東久邇宮家の復活について、本文でどう書いてますか?ちゃんと読みました?

      倉山先生は、皇室の傍系の復活については賛同しながらも、直系・傍系の序を守るべきであり、現在の皇室の正統性に疑義を投げかけるような一部のロジックはおかしいのではと言っているのですが。

      上記の確認をさせてください。
      その上で、内容に応じて追加質問いたします。

      1. かしわもちさんへ

        倉山さんは、
        なんだか小難しい文章(屁理屈)を並べて
        男系男子がいらっしゃる旧宮家の復帰を遠回しに避けているようですので、
        重複するところもあると思いますが、再度書きます。

        天皇の血が、皇太子殿下より血が濃い人間(旧皇族)の存在に関して、
        天皇の血という表現に倉山さんは異議を唱えているようですが、
        どこが間違えているのか分かりません。
        今上天皇の天皇の血の割合を100とすれば、
        今上天皇と民間出身(天皇の血の割合は0)の美智子皇后陛下の
        子供である皇太子殿下の天皇の血の割合は50です。
        それに対して、
        父方も母方も皇族の
        東久邇信彦氏
        東久邇秀彦氏
        東久邇眞彦氏
        の3人の天皇の血の割合は100です。

        50と100と比べたら、
        100の方が大きいですから、血の濃さでは
        皇太子殿下より上なわけです。
        それは客観的な事実ですね。
        こんなこと高校生どころか、小学生高学年ですら理解できます。
        そして、それに関してどちらが正統だとかは誰も言っていません。
        どちらも正統でしょう。

        >よって皇太子殿下が皇位を継承すると「偽主」であり、その後は「偽朝」となる。「偽主」「偽朝」は、南朝が北朝を罵倒したときの文句。明治になり、かのテロリスト幸徳秋水も唱えた。

        誰もこんなこと思っていませんし、言っていません。
        単に、血が濃い人がいますと言っているだけです。

        >私も東久邇宮家の復活と元皇族である信彦氏の子孫である男性(元皇族と区別して旧皇族)への親王宣下を訴えているので、俗流の議論とは一線を画させてもらう。

        これは本当でしょうかね?
        水間政憲さんが約2年前に提示するまで倉山さんを始めとした他の言論人は誰も提示していなかったのではないですか?
        水間さんが提示したから、
        悠仁親王殿下で皇室が途絶えることを望んでいる勢力の
        1人である倉山さんが
        良く分からない屁理屈を出して否定し出したのが真相でしょうね。
        「デマ注意」とか言いだして。

        前述しましたが、
        皇位継承順位は、
        徳仁親王殿下、文仁親王殿下、悠仁親王殿下の順で誰も何も言わないでしょう。
        ただ、悠仁親王が誕生されるまでは、
        「もう皇室はおしまいだぁ。女系天皇を認めるしかない」という意見が大勢でした。
        誕生されたものの、次は
        悠仁親王殿下が成婚される際に、
        成婚相手には「何がなんでも男子を産んでもらう」という
        凄まじい圧力がかかることが予想され、
        相手が決まらないことも予想できます。
        それは即ち、悠仁親王殿下を最後に皇室(日本)は滅びることを意味するわけですから、
        その圧力を激減する意味で、
        男系男子がいらっしゃる旧皇族に宮家として元に戻って頂くのが簡単かつ確実な方法です。

        追記としては、
        悠仁親王殿下が暗殺される可能性もあるわけですから、
        皇位継承者は多い方が良いと決まっています。

        最後になりますが、
        なんでもかんでも不敬不敬と言えば黙ると思っているのか、この馬鹿共が。
        皇室を滅びることを心に秘めている貴方方の方がよほど不敬ですよ。

        1. シェンムーIIIを待つもの様、
          そして、かしわもち様。横から失礼します。

          >天皇の血が、皇太子殿下より
          >血が濃い人間(旧皇族)の存在
          >(略)
          >50と100と比べたら、
          >100の方が大きいですから、血の濃さでは
          >皇太子殿下より上なわけです。

          臣籍降下した源氏や平氏の存在をご存知ないのでしょうか? 「当代の」、つまり、「その時点での天皇陛下」から血が離れたため、氏を賜り、臣下となったのです。
          現代日本に置き換えれば、今上陛下との繋がりが一番の基準になるのです。どう考えても、皇太子殿下より上の方なんていません。

          とうきち様も書いていらっしゃいますが。倉山先生は、旧宮家復活に反対されてなどいませんよ。2600年の伝統を無視した、小学校低学年レベルの算数番付を止めなさい、と仰っているのです。

    2. 別に倉山先生は旧宮家復帰論を否定とか反対してるわけではありません。ただ、議論の中に、みずからの皇室論を展開したいだけの自己満足に浸ってる識者が、結構多いこと、表現の方法が間違ってる議論がある、ということでは、ないでしょうか。

      それと、旧宮家復帰論のなかでも東久邇家など女系で縁が近く家について、いろいろ議論があるようです。私は、男系プラス女系による補強という考え方、もしくは男系と女系両方にかなう方ということで、優先されるのはよろしいと思います。

  4. 今の直系の歴史の重さを無視する議論の危険性云々と書いていますが、
    その直系より神武天皇から続いた皇統の重さの方が
    遥かに上です。
    今の直系は、傍系から直系になっただけです。
    そして、今の傍系も直系になることもあるでしょう。
    優先事項は、
    「神武天皇から続いた皇統」です。

    ま、倉山さんも反日勢力の一味なんでしょうから
    ここで私が何を書いても痛くもかゆくもないでしょうね。
    皇室の直系云々以前に、
    倉山さんの家系図を提示してもらった方が
    倉山さんの議論を封じられそうです。
    家系図の中に、日本人でなかったり、共産主義者がいるかもしれませんから。

    1. シェンムーIIIを待つ者さま

      議論が散漫になっておりますが、すれ違った状態で議論すべきではないので、まず前提となる下記論題を簡単に確認させてくださいませ。
      Q1.あなた及び水間氏の議論は、現在の直系や傍系に拘ることではなく、血の濃さを重視する観点であり、皇室を継ぐ男系男子は血が濃い方がより良いとの立場に立脚していることに間違いはないですよね。あなたの言葉を借りると、50より100の方が良く、正統であるということですね。
      Q2.議論の前提として、皇室に壮健な男系男子後継者が生まれることを阻む論理をかざすものは、逆賊であることに同意しますね。

      とても簡単な議論の前提2問ですが、これを元に私とあなたでの議論をしたいのですが、同意いただけますよね。
      ご返答お待ちいたします。

  5. もう一つ追記を。

    悠仁親王殿下に男子が産まれなければ
    皇室はもうおしまいということから
    女性宮家が出てきているわけですから、
    皇太子殿下や悠仁親王殿下より天皇の血が濃い存在が
    複数人いらっしゃることが広まれば
    その女性宮家なんて雲散霧消しますよ。

    女性宮家が実現してしまえば、
    それこそ偽主、偽朝です。

    倉山さんはそれを望んでいるのでしょう。

    1. >シェンムーIIIを待つ者様

      皆非常にわかりやすい質問をしているのに答えることが出来ないのですね。

      答えるのが負けを認めることになるからだということはわかりますが、ここで答えられないからと言って、twitterで「超拡散」とつぶやきつつ、倉山先生をdisっても誰も聞いていないw 悲しいですねえ。

      ここであなたが垂れ流した妄想。あなたの信じている人の嘘。
      私が暴いてあげますので楽しみにしてくださいね(笑

  6. ここの管理人、よくこんな人の話を聞いていない垂れ流しを承認したね。
    ところで、女系排除の人が男系の「血が濃い」根拠として、「お母さんやおばあさんが皇族」っての、どうなの?
    その主張は、女系派の小林よしのり氏もしている。

    1. おれの投稿もよくボツになるのにこんなネタ投稿で採用なのか(*´・ω・。)

  7. >シェンムーIIIを待つ者様

    妄想を長文で書き散らす前にググったらどうですか?

    本物の国体護持の大問題 2011年11月25日
    https://office-kurayama.co.jp/?p=2086

    宇多天皇は旧皇族の先例です!2011年12月25日
    https://office-kurayama.co.jp/?p=763

    水間氏は2年前なんですね。倉山先生は7年以上から旧皇族の皇籍復帰について発信してますが?

    それとそのバカ算数本気ですか?

  8. シェンムーIIIを待つ者さんの
    「天皇の血の割合」の100とか50とかに疑問。
    猫の血統書みたいな話で皇統を語るとか正気の沙汰とは思えません。
    純血種と雑種みたいな感覚で、皇室を見てるわけですか。ありえません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA