井上準之助という悲劇

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 民主党の「官僚政治からの打破」の正体があからさまになってきた。行政刷新会議では必要不必要の事業を仕分けしているという。誰と一緒に?財務省主計局と一緒にである。

 つまり、「原告・民主党政府vs被告・官僚機構」の構図の裁判官兼検察官が財務省主計局なのである。このやり方を正しいとも悪いとも言わない。英国内閣制度などは、第一大蔵卿が総理大臣となった歴史である。上っ面だけでなく、その中身までもきちんと模範にするなら構わない。せめてウォルポール、大ピット、小ピットがどのように「政治主導」を確立したか、ことあるごとに「イギリスでは」などとおっしゃる民主党政治家の皆さん、ご存知のはずであろう。是非とも講釈を承りたい。特に菅さんと小沢さん。

 嫌味ついでに。「政府に、大臣以下100人の政治家を入れよう」などとよくわからない数値目標が一人歩きしていたあげく、「最近の労働党では反省の報告が提出されています」などと知らされてあわてふためく、って余程うわべだけしか真似していないのか?そんなこと、44年前から言われている。

 R・T・マッケンジー『英国の政党』(早川崇・三澤潤生訳、有斐閣、一九六五年)

 早川崇は、まあ色々あったが、インテリとして知られた議員である。わざわざ金と時間をかけて英国に出張する前に、日本語で書かれた文献はきちんと読んでおけばどうだ?先輩にあたる議員が翻訳もしてくれているのだし。

 本朝においても、「主計局が全省庁を強権でもって査定」など、昭和四年(一九二九年)からやっているのである。この当時の大蔵大臣は井上準之助である。何をやったかと言うと以下。

一、前内閣が可決した予算を停止。実行予算(今の執行予算)において、使える上限を減額。野党が挑んできた憲法論争を論破。

二、予算編成で、とりあえず陸海軍、ついでに内務省を見せしめに。外務省すら例外と認めてもらえず。

 新規要求には、さらなる節約による自主的財源捻出が要求される。あげくには、主計局が予算請求表を作って、自分で査定する。査定の最中に、一応の意見が言えるだけ。言おうものなら、やはり「では他の予算を自分で削れ」などと言われてしまう。

三、大義名分として「赤字財政健全化」「行財政整理(改革)」。ちなみに井上蔵相は与党内の族議員全員を敵に回し、一切妥協せずに完勝。「復活折衝」の概念が消滅。

四、さらなる大義名分として「軍縮」。主計局にかなわない陸海軍は、内閣の法制局にまで権限(統帥権の独立)を食い荒らされそうになって、一致団結して撃退。この頃の法制局は弱かったというか、珍しく陸海軍が一致団結したというお話し。

五、さらに官吏一斉減俸。裁判官を含めた国家上級公務員の給料を一斉に一割カット。大審院(最高裁)も含めた全省庁の反対運動を制圧。

 関東軍とか青年将校が「東京で合法的に活動しても駄目だ」と思うのも当然であろう。すさまじいばかりの権力である。それでやったのが城山三郎すら実は認めている世紀の大愚作である金輸出解禁で、結果は大不況(=東北農民身売り&東大を出ても就職難etc)である。

 強い権力を作るのは大事だが、使い方を間違えないようにしないと。

 井上準之助、存在そのものが悲劇である。

 今の民主党は見守るしかないが、何をやっているのかをわかった上で見守りたい。別に新しいことをやっているわけではないので難しくはないが。

 歴史に学ぶ、難しいが大事だなあ。

「井上準之助という悲劇」への0件のフィードバック

  1. つまり主計局は、ただひたすら予算を削ることのみで動いているというですね。そしてときとして必要な予算も削ってしまうこともある。
    なおかつ予算を握っていることによって絶大な権力を握っているということにもなりますね。
    今の永田町と霞が関は「民主党vs財務省以外の省庁」の構造になっていてどちらが勝っても財務省に権力があることは変わりないということでよろしいのでしょうね。

  2. 木原誠二氏が英国大蔵省に出向中、サッチャー元首相と直接話をする機会があったそうです。

    その当時、日本では、どの国に倣ったのか「ゆとり教育」を取り入れていたそうですが、それを指して、

    「イギリスは競争力を高めるために、日本の素晴らしい教育に習ったのに、
     なぜ、日本は私たちイギリスの教育の悪い部分だけを取り出して真似しているのか?」

    と、サッチャー元首相に、逆質問されたそうです。

    英米のものはすべて素晴らしい!という、
    海外信仰ともいうべき新興宗教に騙されないために、
    私たちは学ぶ必要がありそうですね。

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