久しぶりに書評というものを。
岩井秀一郎『最後の参謀総長 梅津美治郎』(祥伝社新書、2021年)
著者は歴史研究者の肩書で最近多くの本を出されている。日大出身ということは古川門下か。山本七平賞の奨励賞を受賞。
さて、「はじめに」「おわりに」の前に一読したのが参考文献。合計8頁強。
少ない。
基本的に、当該期の一次史料と代表的研究書が並んでいるのだけど、梅津に関する直接の文献は45年前の顕彰的伝記と片手で数えられる論稿のみ。私が新人物往来社で書いたのは引用されていなかった。(苦笑)
特に先行研究から大きく進展させたと言うことはないけど、梅津家から借用した写真が少なからず掲載されているので貴重。
梅津、昭和期の重要人物でありながら、本人の残した一次史料が皆無なので、周辺人物の史料をかき集めるしかない。著者も苦労されたのだろう。
陸大首席のスーパーエリートで最後の参謀総長。
陸軍次官として2.26事件とその直後の粛軍(皇道派潰し)、宇垣内閣流産と林内閣の組閣(石原莞爾潰し)の中心人物、ノモンハン事件後は関東軍司令官として関東軍の立て直しのみならず関特演を断行、そして参謀総長として終戦とミズーリ号での降伏文書調印。
昭和史の超重要人物でありながら、通説が無い。
本文ではほとんど言及されていないけど、人によっては「統帥派の首魁」「軍閥の権化」あるいは「ソ連の回し者」「アカ」のように描く人もいる。
当時の日本政治(というか政治が成立しない行政)では登場人物が多すぎる且つ全員が疑心暗鬼にお互いを好き勝手に批評しているので、一次史料にそういうのが出てきて、どう史料批判するかで腕が問われるのだけど。
本書は、「梅津から見た昭和史」として読める。賞味256頁も無い本なので、「派閥を作らず仕事に邁進した人」「ロクでもない部下(特に石原莞爾)ばかりめぐってきたので、部下を信用しなかった」「2.26事件、ノモンハン事件、終戦と常に後始末の役回りだった」という、梅津目線の伝記としてはまとまっているので、一読の価値はある。
コロナがグダグダのまま終わらず、ウクライナ問題を自分の危機と捉えられない日本。
昔も今も正論が通らない日本であるのは変わりないからこそ、梅津のことは知っておいて損は無いと思う。
本書をきっかけに梅津の研究が進んでほしいと思うけど、あまりにも研究が難しい人物なので、まともにやれば超大作になるはずだけど。
倉山先生の書評は嬉しい。
この本気になっていたのでますます読んでみたくなりました。