「【たぶんだれも聞いてくれない】（倉教組リレーエッセー傑作選）」への1件のフィードバック

1. 今の嫁さんだけだった、一ヶ月の書籍代を素直に告白し、
   結婚しても、本は買い続けることを承諾してくれたのは。
   それでも、本が原因で家庭が壊れかけたことがあった。
   古本屋で河合栄治郎全集を見つけた。
   途方もない額だった。眺めるのが日課になった。
   古本屋の親父が「手にとってみては如何ですか？」
   などとこちらの心の内を見透かすようなことを言った。
   ビニール紐を解き、一冊手に取らせてくれた。
   本を開いた瞬間、封印されていた河合栄治郎の魂が
   コーヒー専門店のコーヒーの香りのように
   店全体に充満した感があった。こうなったら
   もうダメだった。古本屋の親父の勝ちである。
   家に帰る足取りは重かった。本が重く感じた
   わけではない。これから始まる夫婦喧嘩に
   憂鬱を感じてだった。想像通りの展開になった。
   「出て行ってもいいんだぞ」とうとう言ってしまった。
   それから一週間後、私の仕事の休みの日に
   玄関のチャイムが「ピンポーン」と鳴った。
   嫁さんは、意味ありげに「あなた、出て」と言った。
   「どなたですか？」という問いに「中古車屋で
   ございます。お車を拝見に来ました」との答え。
   まだ、一年間しか乗っていない。
   バランス・シートを考えた場合、完全に嫁さんの
   勝ちだった。3500万円の書籍代だと～。
   オレのあの時の苦労は何だったんだ。

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