官僚の性癖としてしばしば批判されるのが、権限と出世への執着である。人間誰しもそのようなことは考えるものであり、ある種の活力ともなるが、度を超えると良くない、くらいが常識論であろう。
では、城山三郎が理想化する風越はどうか。大好きなのである。
しかも、私利私欲・公私混同の固まりである。悪役ぶり爆発である。
小説の山場は、特定産業振興臨時措置法の国会提出である。業界から望まれたわけでなく、通産省が独自に国内産業保護の目的で提出した法案である。
当然、風越の鼻息は荒い。(143頁)
この法案は落日気味の通産省の起死回生の新法だ!
???
つまり、通産省のための法案なのか。
さらに読みすすむと、自分が事務次官になる手みやげの法案なのである。
よりによって、政府が貿易自由化を推進し、IMF8条国に移行しようとしている、その時に。結果、何度も廃案になってしまう。
そして、風越自身も確実視されていた事務次官就任を逃し、特許庁長官に回される。その経緯は7月17日に既に書いた。
ところが、政変により状況が変化する。 そこで一言。(291頁)
政界の風向きが変わった!
晴れて、官僚の最高峰である事務次官になれました。めでたし、めでたし。
ん?
結局、自分の出世しか考えていなくないか?
しかも、省をあげて、政界も巻き込んだ大騒動を起こして。
天下国家は特権官僚の出世のためにある?