40年ぶりの決選投票、ということで話題になったのが昭和47年の総裁選挙。
いわゆる「角福戦争」。
当時、約8年に渡る佐藤栄作の政権に人心は飽き飽きしていた。
ではなぜその佐藤の政権が長期政権になった?
その地位を脅かす人々がいなかったから。
佐藤前任の池田勇人首相は病気退陣の後、死亡。
佐藤は、池田に総理の座を譲ってもらったにもかかわらず、思いっきり恩をあだで返して、最大派閥を継いだ前尾繁三郎を苛め抜く。前尾派は衰退。
前尾は哀れ、大平正芳のクーデターで領袖の座を追われる。
(加藤紘一が出現するまで「史上最弱のヘタレ派閥領袖」の扱い。最近、谷垣が抜きそうになった)
約60人で第3派閥の大平派に逆らう力は無し。
最大のライバルだった河野一郎(洋平の父、太郎の祖父)は、池田の後継争いで佐藤に負けた後、憤死。
派閥は分裂し、その残党をまとめた中曽根康弘は何とか第5派閥に。
約30人くらい。もちろん、逆らう力はなし。
めぼしい政敵は、第4派閥の三木武夫だけど、佐藤の地位を脅かすことはできない。
約40人くらい。
佐藤体制の両輪が福田赳夫と田中角栄。
福田は第2派閥の領袖。幹事長、蔵相、外相として支える。
約90人くらい。
佐藤からの禅譲を期待して、何年もホゲー。
最大派閥の佐藤派は絶頂期には100人を超える。
田中は第1派閥佐藤派のNO2。蔵相、幹事長、通産相として支える。
田中は佐藤が辞めるといった瞬間、派閥の大半の80人を支配下に。
派閥乗っ取りを企み、何年も虎視眈々の準備していた。
さて、ポスト佐藤をめぐり、三角大福中と言われた、三木・角栄・大平・福田・中曽根の五人が有力視される。
本命は大蔵省出身のスーパーエリートで保守本流と目された福田赳夫。
中曽根を脅し、三木派から票を奪い、みたいなことをやりまくる。
対抗は、成り上がり英雄である田中角栄。
この両者を中心にすさまじい金権選挙を繰り広げ、票の奪い合いが激化。一説には田中角栄は100億円(今の感覚で170億円?)ばら撒いたとか。
田中は、決選では協力を約束している大平との同盟関係を軸に、中曽根・三木との協力を模索。
中曽根に至っては、出馬をとりやめて角栄支持に派閥をまとめる。
「四派連合」の成立に中間派・日和見の連中が雪崩現象を起こすかと思いきやさにあらず。
ここからが福田の巻き返しで、「やはり1位は福田では?」などと観測されていた。
結果。
第1回投票。
田中156票、福田150票、大平102票、三木69票
田中の1位は中曽根が出馬をとりやめて支持してくれたから。
福田は負けても6票差。最大派閥の意地を示した。
大善戦は大平。「田中政権」でのNO2争いで三木に先んじる。ただし、田中の票を食いまくった。
三木は惨敗。ちなみに「私は入れてあげたのに残念ですね」という電話が200人くらいからかかってきたとか。
決選投票
田中282票 福田190票
さて何票差でしょう?
△92票差・・・単純計算。×ではないが。
○46票差・・・これだけの人間が逆の候補に入れたら逆転するから。
つまり、三木の基礎票の40票強が福田に着いたら、田中は負けていたわけです。
といいうか、そんな単純な投票行動ではないにせよ、69人がいっせいに福田についたら田中の負け。
現に、福田は最後までそこに期待して工作しつづけた。
ついでに第1回投票で大平か三木に入れた171人全員が田中に入れていたら327票になっていなければおかしい。
裏を返せば、「絶対に田中は嫌だ」という人が45人いたということ。
結局、大平・中曽根・三木の誰か一人でも敵に回したら、選挙に負けていたわけです。
大平に至っては、「田中の156票と俺の102票を合わせれば、党内で逆らえる奴はいない」などという態度を田中内閣のあいだ中、取り続ける。(その計算、中曽根が大角連合を裏切らない、という前提なのですが。苦笑)
「生涯の盟友」ですらこれ。
何年もホゲーとしていた福田を尻目に必死に自分の手勢を拡大しても、この勝ち方。
もし福田が最初から本気だったら勝てるわけがない戦いだったのですな。
それでも戦うしかなかったですが。この時代は、政権を取る方法は自民党総裁選挙しかなかったので。
さて、三木・大平・中曽根(後に福田)が並ぶ田中内閣の組閣を見た、佐藤昭子(愛人にして金庫番)とハマコーが口をそろえて曰く。
「この内閣は短命だ。。。大臣がみんな総理より年上だ。。。」
その通りになってしまう。
ちなみに同じ決選投票でも昭和35年の池田勇人の勝ち方はすさまじい。
池田勇人246 石井光次郎196 藤山愛一郎49 他6
池田勇人302 石井光次郎194 他1
第1回から過半数に足りないことわずか2票。
決選では、本来の石井の支持者の票まで奪ってしまう。
だから強かったのです。
以上の話、固有名詞を入れ替えて現代の話と読み替えてください。安倍さんは池田と田中のどちらに近いでしょう?