政府の休業要請ならぬ休業命令についての憲法的考察

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菅内閣、コロナ対策で特措法を改定するらしい。中身は補償と罰則をつける。つまり、つかみ金をやるから、休業要請に応じない場合は罰則をつける、との内容。

以下、憲法学者としての私見。「違憲のオンパレード」の法改正にならないように望む。

該当条文

13条が総論で、その他は各論。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。

2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

政府の「要請に従わなければ罰則」の対象は、「集会の自由」「移転の自由(移動の自由とも言う)」「教育を受ける権利」「勤労の権利」「財産権」及び「その他あらゆる幸福追求に対する権利」が対象となる。

それらの制約を制約する原理は憲法典上は「公共の福祉」のみであり、特に財産権の侵害に対しては「正当な補償」が必須である。

さて、学説では「正当な補償」の額はどの程度であるべきかの定説はない。

たとえば、1億円の売り上げがある店に罰則付きの休業要請(もはや要請ではなく命令だが)をした場合、その補償額が100万円である場合と8千万円である場合と、2億円である場合、すべて意味が違う。

一、政府は罰則付き休業命令の補償額をどの程度と考えているのか。「相当補償説」か「完全補償説」か、はたまた市場価格を上回る額を支払うと考えているのか。

二、仮に休業命令に従った場合、政府の補償額が著しく下回った場合、損害賠償を請求する訴訟が頻発することが予想される。最高裁判例でも学界の通説でも、憲法29条3項を直接根拠に請求できるとしている。
困窮する国民は裁判に訴えて補償を求めるなどできないであろうが、そのような人々を取りまとめて巨額の賠償請求をする「裁判屋」が現れたとき、政府はどうするつもりか? 裁判に勝てるつもりなのか。それとも天文学的な額の賠償金を払う気なのか。

三、罰則を付けるということは、国家が罰の行使を独占することであり、私人により罰すなわちリンチを、政府の責任で取り締まらねばならない。
現在、「自粛警察」「マスク警察」が横行しているが、政府に取り締まる意思ありやなしや。

まさか、はした金で罰則付きの休業命令をつけて、マスク警察や自粛警察はやらせ放題。あとは「あの時はコロナで仕方なかった」で裁判もろもろ済ます気ではないよなあ?