どういうつもりでこれを言ったのか、よくわからないが、まず引用。
「例えば当時環境問題は全くなかったわけですから、憲法には環境問題の『か』の字もない。現実問題として必要なところからやっていくことになるんでしょう」
ここの部分は確かに発言している。
「たとえば」で始まっているので文脈を読まねばならないのかもしれないが、確かに発言はしている。
よって、疑念が生じる。
なぜ、よりによって環境権なのか?
「たとえば」で始まるにしても。
疑念一 どのような条文になるのか?
本来は、改憲案に賛成か反対かは、条文が示されてからでないと言えない。
国民投票法がそうなっているので。
しかし、疑念二から五の理由により、今回ははっきりと
「なぜ環境権なのか」「深く考えていない思い付きではないのか」
と考えざるを得ないので、疑念を呈させてもらう。
なお条文に関して、論点を指摘だけしておくと、
「自然環境を大切にしよう」くらいの抽象的な条文なら、
法律用語にそんな曖昧な条文を盛り込むことは可か。
逆に、「地球環境を大切にしよう」などと書き込まれたら
目も当てられない危険性がある。
別に「自然環境」でも「地球環境」でも、本来は問題ないのだが、
日本国憲法の体系の中に盛り込まれると困る可能性がある。
疑念二 加憲の必要性の立証は?
菅官房長官の発言は明らかに、日本国憲法のどれかの条文を改正するのではなく、
条文を付け加える加憲の立場にある。
それは「憲法には環境問題の『か』の字もない」の発言から明らか。
では、なぜ加憲の必要があるのか。
法律だけでは対処できない理由は何か。
必要があるとすれば最高裁の判例をどう考えているのか。
こういった議論を踏まえての事なのだろうか。
疑念三 プログラム規定になる懸念は?
仮に「自然環境を大切にしましょう」と憲法典に盛り込んだとする。
その後で原発事故のような大事故が起きたとする。
被害者が国に対して損害賠償請求をした場合、
これまでの日本国憲法の判例の如く門前払いをするのか。
仮にそうした場合、単なるプログラム規定で、何の意味もない条文ではないのか。
疑念四 訴訟リスクは?
逆の場合を考える。
原発事故のような大事故が起きたとする。
被害者が国に対して損害賠償請求をした場合、
憲法典の環境権の条文を遵守して、巨億の賠償金を支払うのか。
巨大な財政支出の覚悟があるのか。
疑念五 連立与党の公明党の本音は否定的では?
確かに、今年の憲法記念日には環境権について前向きな発言をしている。
公明党「『加憲』のテーマは環境権や地方自治拡大など。さらに議論を深める」
しかし、彼らはどういう議論をしているのか。
去年の記事。
公明:「環境権」の除外検討 憲法改正で方針転換
(『毎日新聞』2015年3月23日)
公明党は憲法を改正し新たな条項を加える「加憲」の対象から、環境権を除外する検討に入った。環境権の加憲は、同党が選挙公約で掲げており、憲法改正に関する中心的な主張だが、欧州諸国で環境権に関する違憲訴訟が相次ぎ、開発や投資の妨げになっていることを受け慎重姿勢に傾いた。早期の改憲を目指す自民党は、環境権加憲に応じることで公明党の抱き込みを狙ってきたが、戦略の練り直しを迫られることになりそうだ。【高本耕太】
◇経済への支障懸念
公明党がこれまで提唱してきた環境権は、国民に「良好な環境で生きる権利」を付与し、国に「環境問題に取り組む義務」を課すもの。1990年代から掲げており、象徴的政策の一つだ。昨年12月の衆院選の重点政策集にも、加憲の対象として「例えば、環境権など新しい人権」と掲げた。
しかし、昨年夏に衆院憲法審査会の与野党議員が行った欧州視察では、環境権を憲法に盛り込んだ結果、経済的なダメージがあったなど否定的な意見が多いことが判明。ギリシャでは「開発と環境保護のバランスをとるのが困難だ」として、経済成長の支障になる可能性が指摘された。ポルトガルでは「個人主義を助長する恐れがある」などと、社会的な秩序が混乱することへの懸念が出された。
公明党幹部は「環境権を盛り込むことで、地理的に離れた場所での違憲訴訟も可能になるかもしれない。公共工事は立ち行かなくなってしまう」と懸念する。
日本には、憲法13条(幸福追求権)に基づき、環境保全の施策を定めた環境基本法が既に存在する。党憲法調査会幹部は「環境権の加憲はデメリットも大きく、ことさら書き込む必要はないのではないか」と、環境基本法での対応で十分と指摘。別の党幹部も「(党内は)かなり否定的に傾いている」と語った。
公明党は私がここで言った程度の事は、去年の内から百も承知しているようだ。
それで今年は「環境権を盛り込もう」などと言っている。
まさか、自分たちで指摘した問題を解決したとも?
何の罠を仕掛けようとしているのか。
悪いことは言わない。
環境権など、安倍内閣の側から持ち出すような話ではない。
これより詳しい専門的な話は倉山塾メルマガで書く。
専門的というのは、要路者に「御説明」する際に語る内容ということ。
また、環境権に関しては「自主憲法研究会」で専門家と協議したことがあるので、その内容もそちらで書く。
真の憲法論議を知りたい方は、是非読んでほしい。
「環境権」はなんとなく良いものかなあと思ってましたが、
専門家めせんだと全く違うものなんですね。しりませんでしたわ。