ある日曜日の暮れ方のことであった。
円楽「今日おまえ学校で何を習ってきた?」
楽太郎「日中戦争だよ」
円楽「ほう、どんな戦争だい?」
楽太郎「昼間にやる戦争だよ」
後世のために解説しよう。円楽とは五代目三遊亭圓楽のこと、楽太郎はその弟子の三遊亭楽太郎のことである。ある日曜日の暮れ方とは日本テレビ系列の番組「笑点」の放映時間である。落語家が「大喜利」と呼ばれる「用意された様々なお題に対して、面白い答えを出し合う」番組最後のコーナーにおけるやり取りである。大喜利と言えば、「寄席で、トリを落語・講談が取らない場合、しばしばその代りに行われた演芸」などと解説される場合もあるが、昭和四十年代以降の日本において、この「笑点」における「大喜利」が想起される。
ただし、番組名の「笑点」が、NETの大人気番組であった「氷点」をもじってつけられた事実は、ほとんど忘れ去られている(異説あり)。むしろ、「氷点」を知らない世代がほとんどとなるまでに、日本テレビを代表する長寿番組となっていた。
ちなみに「ある日の暮れ方のことであった」は芥川竜之介の『羅生門』の冒頭である。
人間は意外と自分の生きている時代に関して知らないものである。履歴書を書く際にハタと困った経験をした人が多いであろう。常識とは意識されないものであり、いつのまにか忘れ去られてしまうものも多い。
では「日中戦争」に関して、どれだけの人がどれだけのことを知っているであろうか。昭和十二年七月七日から大日本帝国と中華民国の間に行われた紛争に関しては数多の人々が、自分の見たこと聞いたことに関して証言をしている。それはそれで貴重な検討材料なのであるが、決して絶対視してはならない。
歴史の方法論とは、史料批判である。すなわち、ありとあらゆる資史料を駆使して事実を明らかにすること。これにつきる。
ところで先日、ある会社勤めの友人から書評を求められた。
「城山三郎にはまっているんだけど、どうなの?『落日燃ゆ』と『官僚たちの夏』はすげえよ。泣いたよ。やっぱ、昔の官僚って日本のこと思ってたんだよね。最高だよね。」
城山三郎・・・懐かしい名前だが。。。
そ、そうなのか?